更新日時:2022.03.18
最高の競技環境から給料未払いまで。船附ひな子が体感中、これが魅惑のスペイン女子フットサル!
PHOTO BY本人提供
2022年2月8日、編集部に1本のメッセージが届いた。
「今回、僭越ながら、SAL様に私のことやスペイン女子フットサルリーグについてインタビューをしてもらえないかと思い連絡させていただきました」
送り主は、女子フットサル選手、船附ひな子。府中アスレティックFCレディースやフウガドールすみだレディースでプレーした後、2021年2月から戦いの場をスペインへと移し、サラ・サラゴサを経て現在はアトレティコ・トルカールという1部リーグのチームで研鑽を積んでいる選手だ。
「自分なりにスペインのフットサルについて発信しているのですが、スペイン1部でプレーしている女子選手は現状1人なので、なかなか知ってもらうことが難しい」(※編集部注:取材後、立川・府中アスレティックFCレディースの吉林千景がスペインのクラブへの移籍を発表)
十数年以上も前から、男子を含め、スペインで戦う選手は一定数いたが、日本のフットサルファンが現地情報に触れる機会は多くなかった。しかし現在は、スペインリーグをライブ配信で視聴できたり、SNSなどで発信する組織や媒体、個人も増えたことで、プレー映像を目にする機会は圧倒的に増えた。それにもかかわらず、日本人にとって「海外フットサル」との距離が開いたままである実情もある。それこそサッカーのように、海外で活躍する日本人選手の一挙手一投足が報道され、またSNSで拡散される機会は少ない。
「こんなに面白く、奥深いのに、知らないなんてもったいない!」
船附の思いは、いたってシンプルだった。
というわけで今回は、彼女が伝えたいことを思う存分語ってもらった。スペインフットサルのこと、試合環境のこと、ちょっとグレーな、待遇面のこと。興味がわいた人はぜひ、彼女のSNSから魅惑のスペインフットサル情報をチェック!
船附ひな子選手SNS
Twitter:@pina039
※インタビューは2月10日に実施した
インタビュー・文=舞野隼大
日本とは異なる環境、試合数を求めて移籍
──船附選手からのメッセージがきっかけでインタビューさせていただくことになりましたが、取材の“逆オファー”をしようと思った理由を教えてください。
スペイン女子1部でプレーしているのは私だけなのですが、スペインリーグは日本よりも環境が良く、レベルもすごく高いということを日本のみなさんにも知ってもらいたかったからです。ですが私だけでは伝えきれないので、メディアを通して発信してもらえたら多くの人に届くのではないかなと思って、メッセージを送らせていただきました。
──船附選手は昨年、トライアウトを受けてスペインのサラ・サラゴサへ移籍しました。なぜスペインでプレーしようと思ったのでしょうか?
大学在学中の3年前に1年間だけスペインでプレーしたことがあるのですが、やはりレベルが高く、試合数の多さなど環境の良さを実感しました。日本のリーグは1カ月に一度くらいの頻度で、大きな体育館を借りて今は年間の試合数が限られていて、それだと少ないと感じています。なので大学卒業後はフットサルに集中できる環境を求めて、試合数も多いスペインでプレーするための準備をしてきました。
──大学在学中のときも含めてスペインでプレーしてみてどんなことを感じましたか?
スペイン人やブラジル人は感情を表に出して伝えてきますし、気持ちでも当たりが強い。自信もすごく強く持っていますね。最初は気持ちの面で負けてしまっていて、自信なさげにプレーしているとすぐにやられてしまいました。技術よりもまず気持ちが大事ですね。
──初めてプレーしたスペインで衝撃を受けたことはありますか?
えっと、たくさんありすぎて……。少し考えてもいいですか(笑)。
──船附選手は、フィジカルを生かした前線のプレーを見せて日本でも存在感を放っていましたが、スペインでもそれは通用していますか?
ピヴォとしてスペイン人にもブラジル人にもフィジカルで勝てる自信はあって、前線で張るプレーに関しては世界で戦っていけると感じています。ですが他のポジションに入ったときに苦手意識がありますね。
──ピヴォ以外のポジションでもプレーしているのですか?
前のチームでは[3-1]のシステムではなく、ピヴォが降りて旋回するという、全員が動く戦術を採用していました。今までピヴォで相手を背負うプレーしかやってこなかったので、アラ、フィクソの動きも取り入れるようになって自分の引き出しが増えましたね。
──そもそも、フットサルを初めてピヴォでプレーするようになったのはどうしてですか?
府中アスレティックFCにいたときにフットサルがうまくできなかったというのと、体が大きいというのでピヴォを始めて、ずっとピヴォとしてプレーしています。
──当時からあこがれていた選手やプレーのお手本にしていた選手はいましたか?
同じピヴォのポジションの森岡薫選手ですね。前線でフィジカルを生かした力強いプレーを参考にしていました。
完全プロは数チーム。給料未払い問題にも遭遇
──船附選手が所属しているアトレティコ・トルカールはリーグでどのような立ち位置のチームでしょうか?
今、チームは降格圏内にいます。新戦力を探していたなかで私もオファーをもらい、出場機会を求めて移籍しました。
──では、今は主力としてコンスタントに出場している。
そうですね。責任をすごく感じながらプレーをできていますし、出場機会を得られていることで自信もついてきています。監督や選手とも会話が増えて、やっとスペインでやっているという感覚です。
──スペインは日本人選手が活躍できそうなリーグですか?
日本人選手は最初は過小評価されるかもしれませんが技術が高く落ち着いてプレーできる選手が多いので、やっているフットサルは日本とは全然違いますが、慣れれば活躍できると思います。ただ、コミュニケーションの面でやはり難しさがありますね。
──今のチームに外国人選手は何人いますか?
私とブラジル人選手2人がいます。
──船附選手とブラジル人2人は完全プロ選手ですか?
はい。今、その2人と一緒に住んでいるシェアハウスで取材を受けています。
──スペイン人も全員プロ選手でしょうか?
プロではない選手もいます。今のチームは学生が多く、トレーナーやフィットネスジムの指導員など、スポーツ関係の仕事をしている選手もいます。全員がプロ選手のチームは3、4チームで、日中は働いている選手がほとんど。スペインでは手に職を持たないと仕事がないようなので、他のチームでも何か資格を持って働いている選手が多いです。
──では、練習は夜の時間に行われているのでしょうか?
そうですね。私のチームは週4日、夜に練習をしています。
──そこは日本でも同じですね。選手の給料についてはどうでしょうか?
それだけで生活できる額ではないですが、100〜900€(13,000円〜120,000円)くらいが出ていて、私が前に所属していたサラゴサの場合は全員がプロ選手で、フットサルに専念している選手しかいませんでした。ただ、給料未払いもありましたし、トップチームで出場機会をもらえないことで悩んでいるときにオファーをもらい、今のチームに移籍しました。プロとアマチュアの環境の違いをこの1年ですごく学びましたね。
──給料未払いですか。ちなみに、何カ月分くらい……?
実はまだ“戦っている”のですが、最近やっと昨年の9月分を支払ってもらって、あと2カ月分を払ってもらおうとしているところです(苦笑)。
──自ら“戦っている”のでしょうか?
スペインには女子フットサル選手を守る団体があって、トラブルがあったときはそこで雇っている弁護士にいつでも相談できます。私もその団体に登録しているので、相談して、クラブに請求してもらい、やっと1カ月分を払ってもらいました。サラゴサは全員プロ選手にしようとして、リスクを負いすぎたことでみんなに払えなくなってしまったのだと思います。
──今のチームでは他に仕事をしながらプレーしているのでしょうか?
はい。家で動画編集やWEBサイトの修正など、日本の仕事をしています。
──日本にいるときからそういった仕事をしていたのですか?
そうですね。先ほど、スペインで生活するための準備をしていたとお話ししましたが、学生のときにスペインに行って日本に帰ってきてからは、就職活動をしないで動画編集の勉強をしてきました。その仕事をメインに、アスレの広報でインターンをしていたこともありましたね。サラゴサでも、プレーだけでプロ契約を勝ち取る自信がなかったので、「広報の仕事も手伝います」という条件でプロ契約を結んでもらいました。なのでクラブの動画を作ったり、写真撮影もしていました。
──動画編集は世界中のどこにいてもできるから?
そうです。元々、スポーツ広報が好きで、その仕事にもつながるなと思ったので。サラゴサでもそのスキルを生かして契約に結びついたので良かったです。
──スペインリーグはどのように開催されていますか?
16チームが1部リーグに所属していて、8月から翌年6月くらいまで、ホーム&アウェイで年間30試合が行われています。(日本でいう全日本選手権のような大会もあります。)
──試合の様子はライブ配信もされるそうですね。
はい。今年から配信サイトができて、全試合ライブ配信しています。コメンテーターがいて、インタビューもありますし、映像もすごくクオリティが高いですね。
──日本でも試合が視聴できます。船附選手はどういったところに注目してほしいですか?
シンプルにレベルが高いですね。ブラジル代表やスペイン代表といった各国の代表選手が集まってプレーしていますからね。日本とはあらゆる点で異なるフットサルをしているので、実際に見て楽しんでほしいです。
■モストレス vs トーレブランカ|青のユニフォームのトーレブランカFSは10番と14番の選手がブラジル代表の選手で、2人のプレーに注目です! 試合も、8-6と得点の奪い合いで熱い試合でした!
■アトレティコ・トルカール vs フッチ・アトレティコ|私が所属するクラブが首位のフッチ・アトレティコに引き分けた試合です。激戦だったので、この試合もぜひ見てほしいです!
■サラ・サラゴサ vs ポイオ・ペスカマール|スペインの全国大会(コパ・デ・ラ・レイナ)のベスト8を決める試合で、延長戦、PK戦と最後まで接戦で盛り上がった試合です!
■ブレラ vs レガネス|オレンジのチームはリーグ2位のチームで、ベテラン選手やスペイン代表が多く所属しています。彼女たちのプレーにも注目です!
スペイン女子フットサルがおもしろすぎる!
──スペインではまだまだプレーしていたいですか?
そうですね。自分が「もう敵わない」と思うまでやりたいです。
──引退するまでスペインにいる可能性も?
でも、アスレとフウガは恩がありますし、またプレーできたらいいなという気持ちもあります。どうなるかは自分でもまだわからないですね。
──長い間、スペインの第一線でプレーしていた中島詩織選手が日本に帰ってきたことで、スペインとの環境の違いを伝えられる選手は船附選手だけに。使命感や責任感のようなものを感じていますか?
こういう経験をしている選手は少ないので使命感はあります。私が伝えられることは、できるだけ多くの人に伝えたいという思いがあります。
──船附選手の目標はやはり日本代表ですか?
そうですね。伊藤雅範元監督が率いていたとき、2016年に初めて代表合宿に呼ばれたのですが、ついていくのがやっとで「これでは貢献できない」と思ったんです。それからは、いつ呼ばれてもいいように、いいプレーをして、代表チームに貢献できるようにという意識で取り組んでいます。代表でプレーすることは夢ですし、目標です。そのためにもこのスペインリーグで相手に脅威を与えられるピヴォになって、活躍することが、今の目標です。
──ありがとうございます。みなさんに伝えたいことは話せましたか?
はい、ありがとうございます。
──なんとなく、まだありそうな気がします(笑)。もう一度伺いたいのですが、どうして編集部にメッセージを送ってきてくれたのでしょうか?
えっ(笑)。実は……シンプルに今の環境がすごく楽しくて、「みんなにスペインのフットサルを知ってもらいたい!」ってことでした。
──なるほど。
例えば、男子のフットサルを見ている方は特に意外に感じるかもしれないですけど、スペインの女子フットサルは、リスクをとってなんぼ、みたいなプレーをするんです。日本は安全なプレー、リスクの少ないプレーを選びがちですけど、スペインはカウンターで簡単にやられてしまうこともあります。でも逆に、それがすごくおもしろいなと。
──たしかにそれは意外ですね。
そうなんです。私が3年前に初めてプレーしたときよりもさらにおもしろくなっています。だからこそ、多くの人に知ってもらいたくて。男子のユーロ(UEFAフットサル選手権)を見て、「あの選手のプレーがすごい」とSNSで盛り上がっていることは日本でもありますけど、海外の女子フットサルを見ている人はなかなかいないですよね。でも、スペインの女子フットサルにも、普通にオーバーヘッドをする選手や、ドリブルがめちゃくちゃうまくてどうやって止めればいいかわからない選手など、目が離せなくなる選手がたくさんいます。そんな選手たちをぜひぜひ、見てもらいたいです。
──ありがとうございます。僕もこれから注目したいと思います。それと、一緒にスペインで戦う日本人の仲間もほしいですよね?
ぜひ(笑)。私自身、スペインに行きたいと思ってから数年かけて準備して、代理人などにもお願いしてきましたが、個人レベルで行くことも可能だと思います。実際に、何人か連絡をもらったこともありますけど、タイミングが合わなかったり、「難しいから諦める」と実現しませんでした。ですが、フットサルならではの事情が逆に、サッカーや男子とは異なる“ハードルの低さ”でもあったりします。私もサポートできることがあると思いますし、お手伝いしますので、ぜひ連絡いただけたらと思います。そのためにもぜひ、日頃からスペインの映像を見て、その楽しさを体感してもらえたらうれしいです!
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