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作成日時:2022.04.17
更新日時:2022.04.18

名古屋契約満了で選んだのはすみだ移籍。絶対王者の“元”主将・星龍太が独白する2022年春の本音

PHOTO BY高橋学

星龍太が新天地で新シーズンを迎える──。

これは、名古屋オーシャンズにとっても、移籍先のフウガドールすみだにとっても、さらには日本フットサル界にとっても、非常に大きな出来事である。

名古屋の転換期を示唆するものであり、それはすなわち、Fリーグのターニングポイントにもつながる。そしてすみだは、「絶対王者のキャプテン」を獲得したのだ。

名古屋で合計10シーズンを過ごし、そのうちの6シーズンをキャプテンとして過ごした。2017年に現役引退した北原亘の正統後継者とも言える彼は、名古屋の顔役として無類のリーダーシップを発揮してきた。「勝利を課せられたチーム」「優勝が至上命題のチーム」のキャプテンにのしかかるプレッシャーを、常人が推し量ることはできない。

星は特別な選手しか味わえない経験を得ながら、自身の役割を全うしてきた。

名古屋で獲得したタイトルは実に「23」。2018年には、守備的な選手でありながら全日本選手権でMVPを獲得し、2021年には、兄・翔太と共にワールドカップに出場した。選手としてこれ以上ないほどの実績を残してきた。その選手が、名古屋を離れる。

退団理由は「契約満了」。現在34歳。“頃合い”とも“まだ早い”とも感じる。移籍先はすみだ。彼がフットサルを始めたチームであり、関東リーグ時代を戦った古巣である。

我々はそこに、どうしても「理由」を探したくなってしまう。

星はなぜ、名古屋を去るのか。引退は考えなかったのか。なぜすみだなのか。名古屋でなにを思い、戦ってきたのか。すみだでなにを考え、ピッチに立つのか──。

「客観視したら三番手が変わるのは当然」
「名古屋で一番難しかったのは人間関係」
「フウガがダメなら、引退を選んでいた」

その言葉の真意とは。新天地での戦いを選んだ星の胸中に迫る。

インタビュー・文=舞野隼大

契約満了を告げられて引退も考えた

──名古屋オーシャンズには合計10シーズン在籍して、キャプテンとして6シーズン過ごしてきました。クラブから契約満了を言い渡されたときの話を聞いてもいいでしょうか?

自分のなかでは「もう少しやれる」と思っていた一方で、「今シーズンで終わりかな」という感覚がここ数年はありました。なので、ある程度は心の準備ができていましたけど、実際に言われると「ああ、終わりなんだな」と。

──受け入れたわけですね。

「もう1、2年続けさせてくれませんか?」と食い下がるようなことはなかったですね。「わかりました。ありがとうございました」と返事をしました。

──とはいえ、名古屋を去らなければいけない辛さもあったのではないでしょうか。

そうですね。兄の翔太はシーズン前から引退を宣言していましたけど、自分の引退するタイミングはヒザのケガもあるので、足との相談になる。ですがまだ続けるつもりでしたし、このチームを去るタイミングで引退を考えていたので、そこで迷いました。

──引退も考えたんですね。ただ、結論はすみだへの移籍でした。

全日本選手権大会前に2週間のオフがあったので、考える時間がありました。そこで引退も考えました。でも、決めきれないままチームの練習が再開してボールを蹴ったら、「やっぱり楽しいな。もっと続けていきたい」と思いました。翔太にも相談して、「プロとして10年間続けてきて2週間で決めるのは難しいし、やりたいと思うならやったほうがいい」と言われて、決心しました。それで櫻井嘉人GMに「フウガに声をかけてもらっていいですか?」と話し、交渉して、移籍することになりました。

──契約満了の理由は聞きましたか?

具体的な理由は聞いていません。ただ、ケガを抱えていたからではないかと思います。自分としてはその状態でもできる感覚はありますけど、テープをぐるぐるに巻いているので「いつ“爆発”してもおかしくない」と見られるのは仕方がないかなと。名古屋は全員がプロ選手で、優勝を義務付けられているチーム。不確定要素を抱えるのはリスクだと思います。あと、どこかで若返りを図らないといけないですし、新しい練習場ができたこともあって、クラブの目線で考えるといいタイミングだったんじゃないかなと感じています。

──ですが、プレー面ではもちろん、キャプテンとしてもチームを引っ張ってきた実績があります。「なんで俺なんだ」という気持ちもあったのでは?

その気持ちは誰にでもあると思います。長い間、貢献してきたと思っていますし、「もう十分だろう」という感情も、「まだやりたい」「なんで俺なんだ」という感情も両方ある。でも、客観視したら自分ですよね。今、オーシャンズには3人のフィクソがいて、一番手が(オリベイラ・)アルトゥールで、二番手にあんちゃん(安藤良平)が選ばれることが多く、自分は三番手。サテライトから(宮川)泰生がトップ昇格しましたし、普通に考えれば、三番手の選手を替える選択になりますよね。

タイトルの数だけプレッシャーを味わってきた

──名古屋での戦いを振り返ってみていかがですか?

苦しかったこともひっくるめて、本当に全部、楽しかったですね。ここでしかできない経験ができましたし、チームのタイトルも、個人のタイトルも何度か取らせてもらえました。充実したプロフットサル人生を送れたと思っています。もうちょっとやりたかったですけど、逆にこんなに名古屋に残れるとも思っていませんでした。

──名古屋で10年間プロ選手としてプレーしてきて、変わったことはありますか?

難しいですね……すべて変わったといえば変わったと思います。

──全部ですか。

社交性や、人前に立って話をすることもそうですし、責任を持ってプレーすることもそう。いろんなところが、どんどん成長していったと思います。フットサルも社会のこともまったくわからないなかで名古屋に来ましたから。内向的で全然しゃべらないキャラでしたけど、(北原)亘さんなどにいろいろなところへ連れて行ってもらい、人としてあらゆる面が磨かれたと思います。

──キャプテン就任も大きなきっかけだったのではないでしょうか?

もちろんそれもありますけど、徐々に変化していったと感じています。キャプテン1年目で優勝できなかったシーズンは、自分のスタイルにないことをしようとした結果、失敗してしまった。自分にとっても、チームにとっても良くありませんでした。失敗から学んだことは大きかったです。でも、その時期に限らず多くの学びを得て、気がついたら「ベテラン」と言われる選手になっていったように感じています。

──名古屋で一番苦労したことは?

見ている人からしたら「負けたシーズン」が印象に残っていると思います。けど、名古屋で一番難しさを感じたのは人間関係です。

──人間関係。

はい。選手の入れ替わりが多く、外国人選手も数年ごとに変わっていく。全員が社交的なわけではないですし、優等生タイプというわけでもありません。そうしたメンバー全員が同じ方向を向いて勝たないといけないときに、反発が生まれやすい部分はあったと思います。

──たしかに名古屋を一つにまとめるのは大変そうです……。

そうですね。思考も外国人と日本人とでは全然違いますし、日本人同士でも違う。うまくいかなければ、それが結果にも表れてしまいます。一度負けてしまうと、チーム内の雰囲気も悪い方向に引っ張られてしまう。これはキャプテンだからということでもなく、みんなが感じていたものだと思いますし、名古屋がFリーグで絶対的なチームである以上、これからも向き合っていく難しさだと思います。

──次のキャプテンにはどんなことを伝えたいですか?

人それぞれやり方が違いますから、特にはありません。

──龍太さんとしては、誰が適任だと思いますか?

名古屋のキャプテンはチームに何年かいる選手や内情を知っている選手が務めることが多いですから、シノ(篠田龍馬)ではないかなと。違っていたらすみません(笑)。彼は歴代のキャプテンを見ていますし、自分のやり方で率いてくれると思います。

──常に冷静沈着ですし、これ以上の選手はいないように感じます。ただ、全日本選手権の決勝で敗れた試合後、あれだけうなだれ、涙する姿は意外でもあり、印象的でした。

責任を誰より強く感じるタイプですし、あのチームで勝ちたい思いが強かったんだろうなと。GKとしてのプレーは申し分ないものでしたし、失点は防ぎようのないオウンゴールだけでした。勝ちたかった感情が爆発して泣き崩れたのではないかなと思います。

──龍太さんは試合後、「唯一リーグタイトルを落としたキャプテンでもあるので、こういうふうに終わるのも自分らしい」と話していました。

負け試合が最後になるのも珍しいかなと(苦笑)。

──一方で、獲得したタイトルは23個もあります。やはり充実した日々でした?

そうですね。もちろん、タイトルを取って終わりたかったですけど、決勝戦はあそこまで攻めて点が入らなければ仕方がないですね。自分の責任であり、チームの責任でもあります。これまで、タイトルの数だけプレッシャーのかかる場面を味わってきて、その境遇に耐えながらプレーし、乗り越えていけるのは、このチームでしかできないこと。本当に充実した時間でしたね。

──龍太さんのキャリアを語るうえで、日本代表も外せません。昨年はワールドカップに初出場しましたが、あの経験がなにか転機になったということはありますか?

トモさん(渡邉知晃)に聞いてもらったインタビューでも話しましたけど、僕はずっと代表に選ばれていた選手ではないですし、「年齢的にも今回が最後」という感覚でW杯に懸けて頑張ってきたわけでもありません。ですから、なにかが変わったということはないですね。最高峰の大会を戦ってみて、シンプルに「強い、うまい」と。こういう世界があることを感じられたのは大きかったですし、ああいった舞台で戦うためのメンタルを学び得られたという感じです。

──今、お話に出たインタビューでも答えていましたけど、次のW杯は本当に目指さない?

はい、目指しません(笑)。そもそも、今の代表チームは自分のようなプレースタイルを求めていないと思うので、選ばれることはないでしょうけど。逆に、フウガから代表選手を送り出せたらいいなという感覚です。

フウガでは嫌われ役になってもいい

──ではすみだの話も聞きたいのですが、そもそもなぜすみだへ?

最初から選択肢は少ないと思っていましたけど、これまで接点のないチームへ行く感覚もありませんでした。アスレ(立川・府中アスレティックFC)も古巣になりますが、当時の移籍はGMの関係性があって行けた“修業先”のような感じでしたからね。

その点、フウガはフットサルを始めたチームでしたし、オーシャンズ以外のチームでプレーするのであればここかな、と。他に声をかけるつもりはありませんでした。

──もし、すみだに移籍できていなければ引退していた可能性もあった。

そうですね。引退するか迷って続けることを決めましたけど、そこでもしフウガがダメであれば、年齢やケガのことがあるのでやはり引退を選んだかもしれません。

──すみだでは、龍太さんの経験を還元していくことも役割だと考えていますか?

チームメートとの接し方は意識して取り組んでいこうと考えています。名古屋では自分も下の世代の選手も全員がプロですから、若い選手が聞きに来たらアドバイスすることはありつつ、基本的にはプレーを見て学んでくれという感覚でした。でもすみだは全員がプロではないので、自分のスタンス、チームへの関わり方は、名古屋とは変える必要があります。もっと自分から話しかけていこうと思っています。

──一番伝えたいのは、やはりメンタリティですか?

例えば「勝者のメンタリティ」は勝ち続けることでしか身に付けられないですから、極論を言うと、フウガにはタイトルを争うような試合を経験している選手が多くはないため、チームとして成熟しているわけではないと思っています。

経験を積まないと身に付かないものを伝えるのは難しいですけど、勝利に執着する姿勢はプレーで見せていけると思っています。誰でもそうだと思いますけど、負けに慣れたくはないですよね。負けるのは本当に悔しい。その当たり前の感情を隠すことなく見せられるかどうかは重要だと思います。どこまでできるかわからないですけど、チームやサポーターに対して自分が振る舞うことで示して、意識を変えていきたいです。

──勝って当たり前だったチームから移籍すると、どこへ行ったとしても勝てないときのギャップを感じてしまいそうです……。

でも、みんな負けたくてやっているわけではないですから。やっているからには勝ちたいですし、応援してくれる人に勝つ姿を見せることが夢や勇気、元気を与えることにつながると思っています。だから、「絶対に勝つ!」と必死にやる。その気持ちは忘れたくないです。名古屋でキャプテンをやってきたとかは関係なく、トップチームで戦う選手が持つべきものとして、立ち位置や取り組む姿勢・意識はそんなに変わらないと思います。

──たしかに、強い・弱い以前の姿勢ですよね。

そのことを、先日の入替戦で見せつけられました。しながわシティもボアルース長野もすごかった。感情が揺さぶられる試合でした。1プレー、1プレーに鬼気迫るものがありましたし、フットサルを初めて見た人でも感じられるような、感情に訴えかけるものがあった。ああいった試合をシーズン通して、どのチームもやっていかないといけないと思います。

──龍太さんの話を聞いていると、自分を高めるというフェーズから、これまで培ってきたものを伝え、導いていくフェーズへと移ってきたようにも感じます。

もちろん、自分がプレーしてうまくなりたい気持ちはありますけど、選手として技術的な伸び代があるわけではありませんから。ケガも抱えていますし、どちらかと言えば今の状態を維持することが大事。そう考えると、プレー以外にも還元できることがありますから、それをフウガが伸びていくために伝えていきたいと思います。

──なるほど。野暮ったい質問で申し訳ないのですが、名古屋で頂点を極めたところから、再びモチベーションを上げていくのは大変ではないですか?

楽しみですよ。名古屋のときとは違うパワーの注ぎ方になりますしね。

──以前、在籍していたときに一緒にプレーしている選手は少ないですよね?

そうですね。まだ合流前ですし、これからチームに入ってみないと、どういう選手がいて、どういう考え方を持っているかはわからないので、自分の立ち位置はそれから考えます。でも正直、嫌われ役になってもいいかなと。

──嫌われ役ですか?

はい。昨シーズン途中に(荒牧)太郎さんが入ってからフウガは勝てるようになったと感じていますが、シーズン終盤は負けが続いていきましたよね。どういう取り組みをしてその結果になったかはわからないですけど、一度ショックを与えると落ちるときがあるんです。

──どういうことでしょう?

僕が名古屋でキャプテンになったときもそうでしたけど、ある種のショックを与えた状態の最初はうまくいっていたのですが、途中から負けはじめてしまいました。そこからまた勝てるようになったものの、首位に追いつけないままリーグタイトルを落としてしまいました。あのときの経験を今振り返るからわかることですけど、チームを変えるには一度、下まで落ちることになると思うんです。でも、そうしないと上がっていけない。

──フウガも強くなるために耐える時期を迎えているかもしれない、と。

チームに入ってみないと実際はわからないですけどね。チームの環境を考えれば、「仕事をしながらプレーしているから」とか、言い訳だってできてしまいます。仮にそういった考えを持つ選手がいるなら、マインドを大きく変えなきゃいけないときがくるかもしれないな、と。嫌われ役になってもいいと言ったのは、必要であればショックを与える役目を担うということ。そうしたことを含め、自分がフウガでやれることはたくさんあると思っています。

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