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作成日時:2023.03.25
更新日時:2023.12.06

「僕にはなにもない」“役割”を全うした名脇役、関尚登。走り続けてクラブに刻んだ意志|俺たちの全日本

PHOTO BY高橋学

俺たちの全日本|特集

関尚登の最後は、ピッチではなく“ベンチ”だった。

日本一まであと3勝。全日本フットサル選手権準々決勝に臨んだ立川アスレティックFCは、先制しながらもY.S.C.C.横浜に逆転を許し、終盤になんとか追いつきPK戦に持ち込んだ。仲間が運命の勝負に向かうなか、関はピッチには並ばず、ベンチからその光景を見守った。

「足を痛めていたので。PKの練習はみんないいキックをしていましたし、クロ(黒本ギレルメ)は素晴らしいGKですけど……見られなかったですね」

仲間を信じていた。しかしシュートを蹴る瞬間は直視できなかった。最初のキッカー、新井裕生が止められてしまう。祈りを捧げるように両手を合わせて目をつぶり、結果はスコアボードの数字で確認した。皆本晃、上村充哉と成功して4人目、酒井遼太郎のシュートはポストをかすめて外れていく。相手も1本外したが、最後は元チームメートの堤優太が決めて、立川は敗れた。

祈り続けた関はその場に崩れ落ちた。すなわち、現役生活が終わりを告げた瞬間だった。



バイプレーヤーが大切にしてきたこと

順天堂大学時代にフットサルと出会い、バルドラール浦安セグンドを経て府中アスレティックFC(当時)に移った2014シーズンからトップカテゴリーでのキャリアが始まった。

「浦安セグンドにいた時は経験のない選手でした。あれからいろいろな経験をしてここにいます。当時はここまで来るとは想像もしていませんでした」

2018シーズンにヴォスクオーレ仙台に移籍したが、1年で復帰後は立川で過ごした。それだけで生活できるプロ契約ではないため、練習しながら働き、週末のリーグ戦に臨む。そのサイクルが想像以上にハードだったことで「長くプレーできるのか」と不安がつきまとう日々だった。

そうやって積み重ねたFリーグ通算220試合・21得点。立派な記録だろう。

「奥さんにはだいぶ負担をかけたなと思っています。そんななかでも、なんだかんだ応援してくれて、関東圏の試合はいつも観に来てくれました」

フットサルと仕事の“二重生活”は、そんな家族の支えも大きかったに違いない。今シーズン限りでの現役引退を表明してから最後のホームゲームとなった1月14日。アリーナ立川立飛に2282人が集まり、最高の雰囲気のなかで名古屋オーシャンズを4-1と圧倒した。試合後に関の引退セレモニーが行われ、奥さんと2人の小さな娘から花束を受け取り、感極まった。

関は、バイプレーヤーだ。主役ではないが、チームに不可欠な名脇役だ。

「僕にはなにもないから」と謙遜するが、そうした姿が周りの選手を惹きつけたのだろう。「正直、僕にはなにもなく、みんなについてきてもらいました」。だからこそ、仲間の思いに応えるためにも、誰よりもピッチを走り回り、献身的にプレーした。

今シーズンの立川は、前年度の選手権優勝に始まり、オーシャンカップ準優勝、リーグ戦準優勝と、名古屋の対抗馬として、破竹の勢いを見せた。関がその立役者の一人だったことは言うまでもないが、そうやって突っ走ってきたクラブは最後、ファイナルまで進めなかった。

だから仲間に託したい思いがあったのだろう。試合後のロッカールームで、関はこう伝えた。

「ここにいないOBの選手にもたくさんお世話になりましたし、いろいろなものを吸収させてもらいました。それに、ここにいるメンバーの一人ひとりが頑張っていることを知っているので、これからもどんどん発展して、どの大会でも決勝まで行くようなチームになってほしい」

どんな時でも大切にしてきたのは、仲間のために走り切ること。戦い続けること。いつでもピッチで汗を流し、泥臭く戦う姿は、クラブの次代を担う若手の目に焼き付いただろう。縁の下の力持ちだった“いぶし銀”がクラブに残した意志は、きっと未来へ引き継がれていくはずだ。



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