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作成日時:2024.02.13
更新日時:2024.02.19

「今回だけは、譲れない」クラブ史上最大の危機に、水上玄太は優しさを捨てる。|#未来へつなぐ戦い

PHOTO BY高橋学、エスポラーダ北海道

エスポラーダ北海道2023-2024シーズンは最下位──。その結果を誰よりも受け止め、その意味と向き合ってきたのが、他でもない水上玄太だ。

Fリーグ開幕以来ピッチに立ち続けてきた水上は昨シーズン、クラブのゼネラルマネージャーに就任した。GM兼任選手としてクラブを発展させる、覚悟を決めたのだ。

だが、2年目の今シーズンはズタボロだった。

開幕戦は湘南相手に10点を奪われ大敗。そこから5連敗。5試合で35失点。選手としてはもちろん、GMとしてスポンサーに挨拶に行くにも、顔が上がらない。

「勝って会う時と、負けて会う時では会話が変わります。耳の痛い言葉を聞くこともありますし、気持ち的にはしんどいことのほうが多いかもしれません」

落ちるところまで落ちた。これより下は当然、考えていない。

ただし、立ちはだかるのは、水上にとって想いのある相手だ。ヴォスクオーレ仙台。F2で優勝してきた彼らは、かつて水上が所属したステラミーゴいわて花巻と同じ、東北を代表するクラブだ。同志もいる。仙台が2019-2020シーズンをもって自主降格を決めた時、リーグ戦で最後に戦ったのも北海道だった。

水上は試合後、「またF1で一緒に戦おう」と、彼らに告げた。

その想いを、胸にしまった。

「再昇格は応援したいし、またF1で対戦したい。でも、今回だけは譲れない」

現在、40歳。積み重ねたキャリアは堂々1位の460試合。鉄人と呼ばれる彼であっても、「引退」を意識していないわけではない。

「降格してもクラブがなくなるわけじゃない。でも、クラブの歴史を紡いできた方全員の思いを背負っている。負けられない。それに、降格してF2で引退なんて、したくない」

入替戦の2試合を終えた瞬間、水上はどんな顔で立っているのか。

インタビュー・文=青木ひかる
編集=本田好伸

※インタビューは2024年1月31日に実施しました

#未来へつなぐ戦い|特集



理想のスタートダッシュが切れなかった

──シーズンを振り返って。

苦しいシーズンだったなと改めて思います。ここ数年はずっとギリギリのところで戦ってきましたが、入替戦は初めてですし、間違いなくうちのクラブにとって一番の危機だと感じています。先輩方がつくったこのクラブを降格させることはできないので、絶対に阻止したいと思っています。

──関口優志選手も怪我から復帰し、戦力はそろっているように見えました。一方、近年下位に沈んでいる背景とボアルース長野が降格したこともあり、スタート当初から危機感を感じていた部分はあったのでしょうか。

昨シーズンよりも戦力は充実していると思っていました。誤算の一つは、関口優志がオーシャンカップで指の怪我をしたこと。守備からゲームを組み立てるプランに力を入れてきたので、やってきたことが崩れ、理想のスタートダッシュが切れなかった序盤戦でした。年間をとおして誰かしら怪我をしている状態が続き、選手がそろわなかったシーズンだったなと。

そこはどのチームも同じで、痛みがあっても出ている選手がいたり、万全の戦力で戦い抜くことはできないものです。ただ、それを差し引いても今シーズンはもっといいシーズンになるとは思っていました。

──若手の成長については、水上選手の目にはどう映っていますか?

まず若手ではないですけど、福田(亮)については今年が加入1年目で、キャリアを重ねてきたぶん自分の色というのもあるし、フィットが難しいのではと心配していました。でも、本人のキャラクターや室田(祐希)とペスカドーラ町田でもやっていた経験を生かしながら、すっと馴染んでくれました。

ただ、それ以外の若手は2年目の選手が多く、それぞれ壁にぶち当たっていましたね。1年目はとにかくがむしゃらに戦っていた選手が、2年目にやれることを増やそうとして持ち味が消えてしまったり、考えすぎてしまったり。もっとがむしゃらにやってもいいぞ、と。話したりもしましたけど、もちろん個人の成長のためには必要な過程なので、チームとしてはそのバランスをとることがとても難しかったです。

──立て直すタイミングも逃してしまった?

ターニングポイントになってもおかしくない試合は何度もありました。

たとえば北海きたえーるでペスカドーラ町田を破った試合。3500人を超える観客の前で、大勝することができ、チームの雰囲気がガラッと変わった印象でした。あとは、アウェイの名古屋オーシャンズ戦もそうですね。上位チームとの対戦では力を発揮できても、順位争いしているチームに勝ちきれず、同点に追いつかれて勝ち点を落とすゲームが本当に多かった。ファイナルシーズンもリードしていても終盤に追いつかれてしまい、「粘り強さ」を今シーズンは出せませんでした。

──原因は疲労が大きいのか、メンタルが大きいのでしょうか?

体力やフィジカルよりもメンタルかなと思っています。勝ちきれない試合が積み重なることで、リードしていても、終盤に「大丈夫かな」という不安を選手たちが感じてしまう。それをうまく修正したりコントロールできなかったことが、一番大きかったなと。

──年明け以降、入替戦に向けて具体的にどんな話をして、何に力を入れて取り組んでいますか。

入替戦については、同点でも残留が決まるので、僕たちにアドバンテージがあります。なので、とにかく守備の形をもう一度作り直すことに時間を使っていますね。今シーズンの失点については、一発で決められるよりも、セカンドポストについていけない、こぼれ球への反応が遅いといった失点が多かったのですが、関口を中心にしっかり意思統一さえできれば守れるという自信もあります。今は、切れるまで動く、やり切ることを中心に取り組んでいます。

──攻撃については、名古屋戦や町田戦のように、どう波に乗って得点を重ねられるか。ですね。

勢いづくことは、うちのチームは若い選手も多いので大事ですし、相手にとって一番厄介なのは、室田ですよね。入替戦でも、いかに彼が気持ちよくプレーできるようにするかが鍵になります。町田戦でもハットトリック、名古屋も2得点。彼のゴールでチームも勢いづき、関口がシャットアウトする。なので、今回のインタビューは僕じゃないほうがよかったかも(笑)。キーマンは室田と関口だと断言できます。



クラブ愛は、仙台に負けない部分

──運命の2連戦。相手はヴォスクオーレ仙台ですが、かつてFリーグに加盟していたステラミーゴいわて花巻でもプレーした水上選手にとっては、東北のチームと戦うことに特別な思いもありますか?

僕も花巻の選手としてFリーグデビュー戦を戦った選手の一人で、仙台にもよく行きましたし、大好きな都市です。もう少し花巻でも勝利に貢献してから地元に帰りたかったという思いもあったので、今回の対戦は感慨深いし、少し複雑な思いもありますね。

──対戦は2019-2020シーズン以来、4年ぶり。ちなみに、仙台のディビジョン1でのラストマッチが北海道だったのですが、覚えていますか?

駒沢(駒沢オリンピック公園屋内球技場)で、GKの税田拓基選手相手に、うちの鈴木裕太郎がスーパーボレーを決めた試合ですよね。

今の仙台の選手はディビジョン1でやっていた選手が集まっていて、僕が知っている選手も多いので、全く油断はしていません。カテゴリーの違いはあれど、12位のうちと、1位の仙台相手だと勢い的には仙台に分があることはわかっています。チャレンジャーとしてやってくる彼らを受け身で止めるのではなく、ぶつかっていくつもりで戦わないといけない。なので、入替戦までのこの中断期間については士気を高めるための時間になるし、とてもポジティブに捉えています。

──仙台には元花巻の選手や東北出身の選手も多く、クラブ愛が強い印象ですが、エスポラーダも北海道出身選手のみで戦うことにこだわっているチームですし、互いに「地元クラブをF1に」という思いがぶつかりあう入替戦になりそうですね。

僕もいろんな縁があって2009年に北海道に戻ることを決めましたが、Fリーグができる前に北海道リーグでプレーした頃から僕を知っている人も、戻ってくることをとても喜んでくれましたし、地元からの声援というのはやはり特別なものです。

もちろん若い選手も同じ気持ちをもっていると思いますけど、このチームで長くプレーしている僕や鈴木、関口、室田、堀米将太は特に思い入れが強いし、そこに関しては仙台には負けない部分です。



「降格して引退」は絶対に避けたい

──15シーズンにわたって北海道でプレーしていますが、移籍を考えたことはなかったのでしょうか?

トップリーグでプレーしている以上は、競技だけで生活できるプロに憧れるのはどの選手も同じかなと思うので、僕自身もないと言えば嘘になるかもしれません(笑)。でも、引退したあとに社会人になることもまた違う難しさもあります。仕事をしながら現役を続けて、引退後も変わらず働ける場所があるからこそ、ボロボロになるまで選手を続けられる。今はプラスに捉えています。

──2年前からGM兼任選手として活動していますが、外部の方、スポンサーと関わる機会も増えていると思います。やりがいやしんどさは?

就任前もスポンサー会社で働きながらプレーしていたので、現場の人の声を聞きながら、「勝ったね」「負けたね」「ゴール決めたね」という声がとても励みになっていました。GM職に就いてからは、一つの会社だけではなくいろんなパートナーさんに会うことで、いろんな意見を直接聞けるようになりました。勝って会う時と、負けて会う時では会話が変わりますし、耳の痛い言葉を聞くことも多いので、今は気持ち的にはしんどいことのほうが多いかもしれません。もっと胸を張って営業にも行けるように、ピッチ内外で頑張らなきゃいけないなと痛感しています。

──24歳でデビューした水上選手も、40歳を迎えました。2022-2023シーズンの終盤には手術をしていましたが、まだまだ現役を続けることを意識した上での決断だったのでしょうか。

長くプレーしているところは、売り文句の一つでもあって、営業をする時の商材の一つにはなっています。「まだプレーもしているの?」と驚かれるし、「そうなんですよ、頑張っているので、ぜひ試合にも」と話をすることができる。興味を持ってもらうには大きなネタにもなります。

僕はフットサルが大好きなので、できる限りはずっとボールを蹴っていたいですけど、Fリーグで試合に出続ける選手でいるためには、若手に負けないように練習から全力で取り組まないといけません。

一昨年はずっと足が痛くて、全力でやらないことに慣れてしまった。ドクターにも相談して、このままでは試合に出る選手でいられないという話をして、中断期間に手術を決断しました。「1試合も休まない」ことを目標にリハビリに専念したおかげで、再開に間に合うことができました。この歳になっても、目標を持つことは大事だなと改めて感じました。

──キャリアのなかでも指折りの重要な試合になるのかと思いますが、改めて意気込みをお願いします。

僕は選手歴こそ長いですけど、優勝争いも日本代表で日の丸を背負った経験もないので、ここまでプレッシャーがかかる「絶対に負けられない戦い」は初めてだし、そこは若手選手と一緒です。そのぶん、関口、室田、堀米と日の丸を背負って戦った選手が何人もいるのはとても心強いです。とくに関口は、名古屋で勝たなければいけない重圧のなかで長く戦ってきたので、こういう試合で力をより発揮してくれるはずです。

今シーズンの試合を見ていても、ネガティブな気持ちに引っ張られてしまう部分はあるので、人生を懸けてという気持ちはありつつも、ここまで来た以上は「この戦いを楽しむ」くらいの気持ちで臨んだほうがいいのかもしれません。

降格してもクラブがなくなるわけではないですが、これまでクラブの歴史を紡いできた方全員の思いを背負っている以上、なんとしても負けられません。

個人としても、降格してディビジョン2で引退ということは避けたいので、勝利に貢献できるように覚悟をもって次の入替戦に臨みたいです。



ディビジョン1・2入替戦

2月17日(土)

中継開始 カード 解・実 現地中継
13:00 北海道2-3仙台
★現地中継&W解説★
実況:福田悠
解説:北原亘
解説:横江怜
ABEMAハイライト

2月18日(日)

中継開始 カード 解・実 現地中継
13:00 北海道1-4仙台
★現地中継&W解説★
実況:福田悠
リポーター:辻歩
解説:稲葉洸太郎
解説:渡邉知晃
ABEMAハイライト

※2戦合計が北海道3-7仙台となり、ヴォスクオーレ仙台のF1昇格が決定

▼ 関連リンク ▼

  • AFCフットサルアジアカップ2024予選|大会概要・試合日程&結果一覧
  • Fリーグ2023-2024 試合&放送日程

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