更新日時:2025.05.08
【独占インタビュー/日本女子代表・須賀雄大監督】世界一を目指す“なでしこ5”のコンセプト「憧れと共感」と、指揮官が求める「誰でもできることを、誰よりもやる」の意味とは?
PHOTO BY伊藤千梅
AFC女子フットサルアジアカップ中国2025が、2018年大会以来、7年ぶりに開催される。
5月6日に開幕する本大会は、今年11月に予定される“史上初のW杯” FIFA女子フットサルワールドカップフィリピン2025のアジア予選も兼ね、3枠の出場権争いにも注目が集まる。
日本女子代表を率いるのは、就任5年目の須賀雄大監督だ。
フウガドールすみだの前身、BOTSWANAの創設者であり、地域リーグ時代に日本一を獲得した手腕は、Fリーグで指揮を執ったすみだ時代も、際立っていた。須賀監督が得意とするのは、戦術の落とし込みはもちろんのこと、選手を“その気”にさせるモチベートにある。
業界屈指のモチベーター監督は、「憧れと共感」を合言葉に掲げる“なでしこ5”をどのようにアジア王座へ導くのか。そして、その先に「世界を驚かせるチーム」をどう構築するのか。
アジアカップの開催地、中国・フフホトへの出発前日、その言葉に迫った。
インタビュー=北健一郎
編集=柴山秀之、本田好伸
※取材は4月30日に実施しました
就任5年目で迎える初のアジアカップ
──7年ぶりのアジアカップの開幕が迫ってきていますが、今の心境は?
今回のアジアカップがW杯予選を兼ねることが決まってから、ずっとこの大会に挑むイメージをもってきました。「やっとか。いよいよだ」という気持ちです。
──2021年の監督就任から5年目にして、待ちに待った初の国際大会となります。
自分が監督に就任してからは、(コロナ禍など)さまざまな状況が絡み合い、公式戦を戦うことができませんでした。
そのなかで自分が大切にしていたのは、自分がコントロールできないものに悩みすぎないことです。大会の中止や延期はどうにもならないことですし、そこで何かプラスにできることを探すマインドをずっと積み重ねてきた4年間だったと思っています。
──就任時点で、2025年にW杯が開催されるイメージはしていましたか?
自分が女子フットサルに関わる前から「W杯があればいいのに」とは思っていましたが、監督に就任した当時はアジアカップが最高峰の大会と聞いていましたし、想像していませんでした。
──女子フットサルにとって初めてのW杯に出場するチャンスがある。このような経験は、誰にでもできることではありません。
これまで自分は一歩引いたところで女子フットサルに携わってきましたが、「W杯開催」というトピックは長く女子フットサル界に携わってきた方々にとっても大きな話題です。その歴史の一部に自分が監督として携わらせてもらうのは、本当に責任が伴う仕事だと思っています。
──日本女子代表コーチの藤田安澄さんは、代表チームが初めて組織される以前から女子フットサルをけん引してきた第一人者であり、元日本女子代表でも活躍されてきました。
そうですね。今の世代の選手たちにはW杯出場のチャンスがある一方で、藤田コーチが現役の時にこの大会は存在しませんでした。
これまでの積み上げがあるからこそ今があるというリスペクトは、選手たちは常にもっていますし、自分ももちろんそうです。その象徴的な存在の藤田コーチが身近にいる環境ですから、全員が代表チームの歴史やW杯の重みを感じながら活動していると思っています。
指導して感じた、男女で変わらないもの
──すみだの監督を退任され、その後、日本女子代表監督を引き受けた理由は?
すみだの監督を退任した大きな理由は、監督として挑戦したい気持ちが強かったからです。クラブを立ち上げた1人として監督以外にもいろいろな役割があったなかで、クラブのみなさんにはわがままを言う形になりましたが、気持ちよく送り出していただきました。監督業に専念することで、より専門的に、深く掘り下げて没頭することができるようになったと思います。
──「性別」の違いもありますが、指導で変えた部分はありますか?
いろいろな方から「女子と男子は違う」とアドバイスをいただきましたが、実際に指導に取り組んでみたところ、個人的には「大きく変わらない」というのが正直な感覚です。
もちろん、試合でもロッカールームに入れない時間があったり、フィジカル面の数値などは男子と明確に違いますが、フットサルの理解度や情熱、テクニックも含めて非常に高いレベルの選手たちが多いことは当初から感じています。それは現在進行形で実感しています。
──選手との距離感はどうしていますか?
男子の選手も当然、選手によって距離感は違います。ジョークを言って喜ぶ選手もいれば、そういうものを嫌がる選手もいる。いろいろなキャラクターの選手たちと接してきましたし、それは女子も一緒です。
選手個々の特徴を考えながら人と接することは普通のことであり、自分はそういったことをこれまでも心がけてきたので、特に何の違和感もなく取り組むことができていると思います。
周囲を巻き込み、応援されるチームに
──須賀監督といえば、すみだ時代からユーモアのあるコメントが特徴で、“須賀語録”と呼ばれるものがありました。
自分が何か「語録」を作ろうとしていたわけではないんですけどね(笑)。自分の言ったことを、後で誰かが「こういうこと言っていたよ」とまとめてくれてできたものなので、もしかしたら今もそういった「語録」を言っているかもしれないですね。
クラブの頃は、基本的にみんなが僕の発言を好意的に受け止めてくれていたので、あえて少しキャッチーな発言をすることで、フットサル界を盛り上げたいと思っていた部分はあります。
ただ今は立場も違うこともあってより意識しながら発言しているので、一風変わったコメントの量は抑えているかもしれません(笑)。
──では、須賀ジャパンの象徴となるワードはありますか?
これは真面目になってしまいますが「憧れと共感」です。
選手たちにも就任当初から伝えてきた言葉になりますが、代表に呼ばれる選手は、彼女たちだからこそできるような華やかなプレーで「憧れの存在」になってほしい一方で「誰にでもできるプレーを、誰よりも行うこと」も大事にしてほしいと考えています。
たとえば、試合中の切り替えや最後まで体を投げ出してプレーすることや、仲間のミスを全力でカバーする姿勢を見せること、どんなアクシデントがあってもすぐに前を向いてプレーに集中することなどがそうです。代表選手には常にそういったことを求めていますし、誰よりもそうした振る舞いができる存在でなければいけないと思っています。
それがきっと「共感される選手」につながると考えています。
──憧れとなる選手が、誰でもできるプレーも全力でやる。それは須賀監督がこれまでつくり上げてきた「応援されるチーム」と重なる部分があります。
そうですね。僕の好きな言葉に「巻き込む」があります。それは、自分たちが楽しいだけではなく、周りにいる人たちも巻き込んで一緒に楽しもうということです。
23歳でチームを立ち上げた頃から、自分たちだけが良ければいいのではなく、試合を見ている人や対戦相手、いろいろな方が楽しいと思ってもらえるような空気感をつくっていきたいという思いをもっていました。
なぜそのようなマインドをもったのかはわからないですが、巻き込むことができたからこそ、自分たちでつくったチームがFリーグのクラブの一つになったと思っています。
──2009年の全日本選手権で、当時地域リーグ所属のFUGA MEGUROが、Fリーグの名古屋オーシャンズを決勝で倒して日本一になった伝説的な試合がありました。あの時、会場の代々木体育館はものすごい数の観客で埋まっていましたし、多くの人がFUGAに熱狂していました。
自分はずっと、あの光景が見たくて監督をやっています。
当時は、日本で一番になるために選手集めをしていました。その時、声をかけた選手に常に話していたのは「本気で日本一を目指しているし、このチームは絶対にそうなる。だから一緒に戦ってほしい」という言葉でした。
そうやってイメージしていた通り、決勝で名古屋との対決を制して日本一になれました。みんなでたくさんの人を巻き込んだ一つの集大成ですし、あの景色をもう一度見たいですね。
14人全員でアジアを戦い抜く
──アジアカップでは選手たちに何を期待していますか?
チームがいきなり強くなることはないと思っていますが、今の日本女子代表はこの舞台を目指して着実に歩みを進めてきました。実際にどこまでできるのかは、目の前の課題を一つずつクリアして証明するしかありません。
今大会に向けて招集した14名の選手はもちろんのこと、ここに至るまでに代表に関わってくれたすべての選手をリスペクトしていますし、全員が素晴らしい選手だと思っています。
そうした選手たちを代表して戦うこの14名が結果を残すところを、誰よりも自分が見たいと思っていますし、それをできる状態にあると考えています。
──国内で実施したトレーニングマッチでは、縦方向への意識の強さと、セットになる守備時の撤退の早さを感じました。この2つは須賀ジャパンの生命線になるのではないでしょうか。
攻撃モデルとしては、常にゴールに迫って、相手コートでプレーし続けることを求めています。積極的に攻め込みながら、うまくいかなければすぐに次のアクションを取って、何度も自分たちが優位になるアクションを続けることがテーマです。
それに対して、アクティブに攻めることで相手ボールになることも増えるかもしれないですが、嫌がらずトランジションの守備で対応していくことによって、よりアクティブかつポジティブで、相手にとって脅威となるプレーをできます。
──プレーの切り替えの速さなど、須賀監督の求める選手像を体現している14名だな、と。
先ほども言った通り、本当に素晴らしい選手が女子Fリーグ、もしくは女子フットサル界にはたくさんいます。しかし、チームとして勝つための軸をつくっていかなければなりません。自分の求めるものを特に体現できる選手が今の14名ですし、その部分で相手を上回れるからこそ、自分たちは確実にアジアチャンピオンになれると考えています。
──大会直前に負傷者を出してメンバー変更もありました。本大会でもさまざまなことが起こり得ると思いますが、どのように対応して、最終的に頂点に立ちたいと考えていますか?
日本女子代表は、自分が監督に就任してからの期間だけでも、多くの不測の事態を乗り越えてきました。だからこそ今、何が起こっても動じずに対応していく力があると思っています。
例えばケガは、絶対に起こってほしくないことの一つですが、スポーツである以上、そういったものが起こることもあります。そこに対応するためにも、いろいろな組み合わせを試しながらここまでやってきました。異なるポジションができる選手をチームに招集して準備してきたからこそ、たとえ何が起こったとしても次の対処ができると思っています。
──「ウニベルサーレ」の江口選手だけではなく、他の選手も複数ポジションをプレーしていました。イレギュラーな状況や試合展開において、いろいろな選択肢をもっておきたい?
今大会は、初戦の試合開始24時間を切るとメンバー変更ができません。本来であれば1、2週間のケガは、それほど大きなものではないと捉えがちですが、アジアカップは短期決戦です。
今回のトレーニングマッチは、勝利も大事にしていましたが、それに加えてさまざまなシチュエーションをイメージしながら、他の組み合わせ、ポジションにもトライしました。こういった経験は、イレギュラーが起きた時にポジティブに作用すると思っています。
──4月のタイ遠征ではいわゆる3セット回しで戦っていました。
日本女子代表は層が厚いという大きな武器があります。それを生かさない手はないと思っていて、3セットをしっかりと起用することが一つの目標になっています。
時間帯などによっては2セットや1.5セットで回していくこともあると思いますが、決勝までの6試合を戦い切ることを考えた時に、14人全員の力が必要だと思っています。3セット+ゴレイロ2人の体制で、全員の力をフル稼働していくこと前提に考えています。
──チーム全体の総合力で勝ち切るイメージでしょうか?
そうですね。最大出力を最初に出せば勝てるわけではありません。最初は苦しくても、そこを乗り越えると流れが来ることもありますし、逆に相手が最大出力を出している場合、そこを凌ぐことが一つのゴールを奪うのと同じぐらい価値があったりもするので、そういった観点もとても大事だなと思っています。
耐えるところは耐えて、次のセットで流れを盛り返すことに期待する我慢も必要です。そして次に自分が出た時に、より良いプレーをしてくれたセットというのを何度も見ています。
最終的にスコアで上回っているチームが勝者です。そこを忘れないようにしなければいけないですし、トーナメントを勝ち抜く上で選手にも常にそのマインドでプレーしてほしいです。
──それぞれのセットで今やるべきことを的確に判断していく。
友人でもあるメンタルトレーナーの森川陽太郎氏がよく話していた「OKライン」は、すみだの監督時代にもよく選手たちに伝えていた言葉です。
「絶対にゴールを奪わなければならない」と思っていると、何をやっても失敗に感じてしまいます。しかし、シュートで終わって、すぐに守備に切り替えて、いいディフェンスができていれば、相手にとっては脅威です。
相手の立場に立ってみればとてもいいプレーができているのに、逆にそれを自分たちで崩してしまうことも起きてしまうので、OKラインの設定を間違えずにやりたいと思います。
上積みを重ねた4年間を経て、世界を驚かすチームへ
──アジアカップの上位3チームがW杯の出場権を得ることになります。この大会に向けてどのような考えでアプローチしてきましたか?
自分は、この代表チームを「世界を驚かせるチーム」にしたいと思っています。常にスペインやポルトガルといった強豪国との戦いを見据えて準備してきましたし、そういったチームとの対戦でも実際に手応えを感じてきました。
ただ、今はアジアを勝ち抜かないと、すべてを失ってしまいます。そのため昨年末からは「アジア」を強く念頭に置いて活動をしてきました。
目標は世界を驚かすようなチームづくりですが、まず今やらなければいけないのは、地に足をつけて一歩一歩、目の前の課題をクリアしていくこと。そういった意味では、年末からの強化に選手たちが応えてくれていると感じています。
──世界を驚かせるという言葉がありましたが、日本の女子フットサルが見据えているものは?
まず、一番の武器である団結力や、自己犠牲心、チームに対する忠誠心は、世界と戦う上で絶対に欠かせないポイントだと思っています。強固な土台があるからこそ、その上に積み重ねても崩れない。少しうまくいかなくなった時、すぐに崩れてしまう状況では意味がありません。そういった意味では、ずっと地盤を固めながら上積みをしてきた4年間でもありました。
ブラジルやスペイン、そして今大会を前にした活動ではイランとも対戦をしました。アジアや世界のトップがどのようなチームで、その相手に勝つために必要なことのイメージも湧いています。自分たちの特徴をより生かしたプレーをすることによって、世界の強豪国とも渡り合える手応えを感じているので、さらに上積みができるように進めていきたいと思います。
──最後に応援している方々に向けてメッセージをお願いします。
このアジアカップは、今まで女子フットサル界をつくってくださったすべての方にとって大事な大会だと思っています。同時に、W杯はこれからフットサルを始めたり、フットサルを好きになってくれたりする人たちのためにも、とても大事な大会です。
今までとこれから、すべての思いを背負って戦うチームが代表ですから、その思いをピッチで表現したいと考えています。みなさんの応援が力になるので、ぜひ一緒に戦ってもらえたらうれしいですし、みんなで一緒にアジアの頂点に立って喜びを分かち合えたら最高です。ぜひ一緒に戦いましょう!
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