更新日時:2025.11.26
W杯初戦の“不安”を打ち消す2つのゴール。8年待った悲願の舞台で「背番号10」網城安奈がもたらしたもの

PHOTO BY伊藤千梅
女子フットサルに関わる、すべての人にとって待ち望んだ舞台、フットサル女子ワールドカップの初戦。日本女子代表はニュージーランドを相手に先制しながらも、追加点が生まれないもどかしい時間を過ごしていた。
圧倒的に攻め込みながらも、ゴールネットを揺らせない。勝負とは往々にしてそうした時間を逃すと、逆に相手に流れを譲ってしまうものだ。
見ている者からすれば、実力的にも勝ち点3をつかめるはず──そうした思いが、少しずつ「大丈夫だろうか……」という不安に変わり始める時間帯、均衡を破ったのが日本の10番だった。
網城安奈は、現チームで最も代表キャリアが長い選手の一人だ。その役割を全うした。
2得点に絡み、日本の歴史的な初勝利に貢献。特別な舞台に、特別な背番号を背負ってピッチに立った網城は、悲願のW杯で何を感じ、どんな思いで戦っていたのか。
取材=伊藤千梅
文=本田好伸
10番は特別な背番号
「テーン、アミシロ〜」
アリーナMCがそうコールすると、網城は入場ゲートから小走りで現れ、サイドラインに両手をタッチする恒例のルーティーンの後にピッチに入場した。
国歌斉唱が流れる間、背番号10は胸に手を当て、前を見据えていた。
「どんな感情だったか?史上初開催というのは、自分だけではなく、日本のみんなにとってもすごく特別な大会だと思います。ここに立ちたかった選手もたくさんいると思いますし、私自身、その思いを背負って戦っていかないといけないと思っています。だから、国歌斉唱の時は、気が引き締まるというか、今からやるんだぞっていう気持ちになりました」
もともと、緊張感を表に見せるような選手ではない。特別な瞬間をかみ締めながら、静かに気持ちを引き締めていた。試合が始まると、彼女はその思いを存分に披露することになる。
ただ、少しのじれったさはあった。
2分に追野沙羅のゴールで先制すると、2分半後の5分、網城は3rdセットのメンバーとしてピッチに入った。主導権をにぎりながらも追加点を奪えない。日本は7分にタイムアウトを取り、網城もそこで1stセットと交代した。12分、先制の安堵が、追加点を奪えないもどかしさに変わる時間帯、2回目の出番がやってきた。
右サイドでキックインの場面、宮原ゆかりが蹴り込むと、中央で受けた伊藤果穂が相手を切り返しでかわしてシュートを放つ。すると、相手に当たったボールが、正面左の網城の元へと転がった。
右足一閃。日本は追加点を奪った。
「こぼれ球がちょうど自分の目の前にきたので、思いきり足を振るだけという感じで蹴ったら入りました。コースですか?いや何も狙ってなくて、とにかく思いきり蹴った結果がゴールになった」
相手GKが触ることもできない右隅に突き刺す一撃は、1点以上の価値があるゴールだった。リードを広げたことで、日本に余裕が生まれ、さらに攻撃性を増していく。ただし、また次のゴールまでに時間を要した。
こじ開けたのは、やはり網城だった。
第2ピリオド、スタートの2ndセットに続いて、23分に再び3rdセットの4人でピッチに入ると、セットプレーのチャンスがめぐってくる。右サイドのCKから中央で受けた網城が放ったシュートは相手に当たってゴール方向へと浮き上がり、これを筏井りさがヘディングで押し込みネットを揺らした。
「枠に飛ばそうと思ったのですが、相手に当たっちゃって。でも、りいさん(筏井)は、そこで決めきるところがストライカーやなって。ヘディング?そこ出てくるんやって、びっくりしました」
味方のゴールへの驚きを語ったが、きっかけを生んだのは網城だ。この試合、結果的に6-0で大勝を収めたものの、もどかしい時間帯で奪った2つのゴールは、日本の勝利に直結する大きなものだった。

網城は、2018年のアジアカップ準優勝メンバーだ。当時を知る選手は江口未珂と江川涼、そして網城の3人しかいない。コロナ禍の影響で大会が延期、中止となり、次のアジアカップが行われたのは2025年5月。その間、監督もメンバーも入れ替わるなか、共に戦った仲間たちの思いを背負い、悲願の舞台にたどり着いた。
あの頃、8番を着けていた背番号は「10」になった。
「日本の10番として自分がふさわしいかどうかはわからないですけど、やっぱり、サッカーでもフットサルでも、10番って特別な番号だなって。自分の好きなメッシ選手とかもそうですし、誰もが憧れる背番号だと思うので、それに恥じないプレーをこれからもしていきたい」
10番は特別な番号──。
網城は、この歴史的な大会で、「初めてのW杯で10番を背負った選手」として刻まれた。ただし、“着けただけ”で満足するはずはない。ゴールも決めた、勝利に貢献した、だが、頂点へ道のりは、まだ始まったばかりだ。
次は、グループ首位通過を狙うために、絶対に勝利が必要なポルトガルとの戦いを迎える。
「確実に相手に分があるとは思っています。ただ、日本はそういう相手にハードワークして勝ってきていると思います。苦しい時間が多いと思いますが、最終的に勝ち点3を取るような試合をしたい」
彼女はこうも言う。
「ゴールですか?それはどうですかね(笑)。得点を狙ってないわけじゃないですし、チャンスがあればもちろん。ただ、アシストのほうが好きなので。貪欲にがんばります」
次戦、日本中の期待を背負う背番号10は、どんなプレーで見る者を熱狂させてくれるだろうか。
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