更新日時:2025.11.28
初選出から2カ月でW杯へ。「覚悟決めろよ、自分」“シンデレラガール”中村みづきが己に言い聞かせる決意の言葉

PHOTO BY伊藤千梅
フットサル日本女子代表は、ワールドカップ最初の関門とされていたグループステージ第2戦・ポルトガル戦に挑んだ。結果は1-3で敗戦。体格、スピード、すべてに勝る相手に対して際立った守備を見せたのが、アジアカップから唯一の入れ替わりとなった中村みづきだった。
初めての代表選出から、わずか2カ月でW杯のメンバー入りを果たした彼女にとって、この場所はどんな意味をもつのか。そして、自分自身に問いかけ続ける言葉とは。

「みんなと同じじゃない」という言葉
「『覚悟決めろよ、自分』って。もうやるしかないので」
代表チームが宿泊するミーティングルームの一室。試合翌日にも受けられた取材場所で、中村がこの舞台に立つまでに自分へ投げかけてきた言葉を教えてくれた。
サッカー選手時代、中村はU-17日本女子代表、ユニバーシアード日本女子代表に選ばれた実績をもつ。浦和レッズレディースや早稲田大学ア式蹴球部女子、横浜FCシーガルズでプレーした彼女のことを「サッカー選手」として記憶している人も多いだろう。
だが2018シーズンに23歳の若さで現役引退。3年間、フットボールから離れた。
「再びボールを蹴りたくなった」という中村は、2021年に関東リーグに所属するカフリンガボーイズ東久留米でフットサルへ競技転向し、現役復帰。そして、4年目を迎えた今シーズン、女子Fリーグ挑戦を決めて立川アスレティックFCレディースへと加入した。
開幕戦でなんと7ゴールを挙げる衝撃デビューを飾ると、今年9月、国内合宿で初めてフットサル日本女子代表に選ばれた。そして今、ワールドカップのピッチに立っている。
トップリーグ挑戦からたった半年の間で、中村を取り巻く環境は目まぐるしく変わった。たどり着いた先にある今の景色を、彼女はどう見ているのか。
「今回のW杯は、中村選手にとってどんな舞台ですか?」
そう問いかけると、中村は「たしかに」と小さく笑った。
「たしかに、どんな舞台なんでしょうね。そもそもなんで自分が今ここにいるのかも、あんまりわかっていないくらいのスピード感できちゃって……。もちろん、ずっとうまくなりたい、強くなりたい、一番を取りたいという気持ちはありました。でも、具体的にFリーグでやりたい、代表でやりたいと思って始めたフットサルではありませんでした。みんなと同じような感じじゃないんですよね。実際に始まってみても、W杯って本当にすごい舞台だし、限られた選手しか立てない。そこに自分がいることが、まだ信じ切れていない。それが率直な気持ちです」
考えながら、言葉を選びながら、素直な思いを吐露した中村。トップリーグでの実績もほとんどないなかで、W杯という場所は、想像もしていない場所だった。
ただ一つ、自分が積み重ねてきたことは信じてもいる。
「始めた頃から“強くなりたい”という気持ちはあったので。その意識をもってやってきたことが、結果としてここにつながったのかなと思います」

W杯の重みを、彼女は痛いほど知っている。だからこそ「みんなと同じではない」という言葉がこぼれる。ここを目指し、ここに懸けていた選手がいる。それでもなお、この場所に立てなかった選手もいる。中村は、そのことを誰よりも知っている。
中村自身、サッカーで数多くの経験を積み、アンダーカテゴリーではW杯の舞台も踏んだ。だがA代表として代表ユニフォームに袖を通すチャンスは得られなかった。あと一歩で届かなかった悔しさ。それを知る者にしかわからない痛みがある。
だから、「わかる」という。
「ここに来られなかった選手の悔しさも、わかるつもりです。簡単に“わかる”って言っちゃダメかもしれないけど……わかるつもりです。その選手たちも応援してくれてますし、支えてくれる人の思いも全部、背負って戦わなきゃいけないなって」
そして、自分に言い聞かせるようにこの言葉を告げる。
「『もう覚悟決めろよ、自分』って。もうやるしかないなって思いました。人生で本当に1回しかない、二度とない頑張るタイミングだと思うので。9月の合宿で自分の名前を呼ばれる前から、『頑張れ自分、ここだぞ』という気持ちでやってきました。生きている間、ずっと頑張り続けるわけじゃない。でも、死ぬ時に『あの時めっちゃ頑張ってたな』って思えるくらいの努力はしようって。この数カ月はずっとそうやって過ごしてきました」
フットサルの歴史を深く知っているわけではない。積み重ねてきた経験は、他の選手より少ないかもしれない。それでも、サッカーで積み上げてきたもの、背負っている思いはある。
アジアカップで優勝を果たしたメンバーではない唯一の選手。己にかかる期待やプレッシャーを逃げずに受け止め、彼女は覚悟を胸に、この舞台に立っている。
そのプレーは、ポルトガル戦でも発揮された。
フィクソとしてピッチに立った中村は、相手の強力なピヴォを封じ、前を向かせなかった。第2ピリオドは出場時間こそ限られたものの、パワープレーセットの一員としてピッチに立つと、ゴールへと迫るパス回しで“新戦力”としての力を示した。
次は、グループステージ第3戦。負ければ終わり、勝てば準々決勝が決まる。中村は、そんなひりつくような緊張感ただようピッチで、何を示すのか。
「自分が納得できるプレーを出すことが、チームにとっても、絶対に勝利につながると思っています。自信をもって、自分らしいプレーを出したい」
まるでシンデレラストーリーのように舞い降りた、初めてのW杯。背番号4は、彼女に抱けない思いを胸に戦い、未知の相手に対して、次はどんな“サプライズ”を見せてくれるだろうか。


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