更新日時:2025.12.02
日本女子代表エースが49秒で示したW杯での確かな“第一歩”。背番号9・江川涼が挑む、世界一への挑戦「ビビることなく、前から」

PHOTO BY伊藤千梅
W杯グループステージ第3戦、タンザニア戦。日本が勢いをつかんだ開始49秒のゴールは、江川涼の左足から生まれた。プレスからの奪取、ドリブル、そして迷いのない一撃。この試合、江川は第2ピリオドのゴールを含む2得点で、日本に勢いをもたらした。
今大会1stセットのピヴォとして試合に臨む江川は、強豪・ポルトガルとの第2戦は無得点。チームも敗れ、苦い表情を見せた。タンザニアに勝利したことでグループ突破を決めた日本。
次の準々決勝の相手は、世界一のブラジルだ。前線の守備から試合を動かす背番号9番の“一歩目”が、日本をどこまで押し上げていくのか。

49秒弾からW杯で2得点
開始49秒、日本に先制点が生まれた。自陣左サイドでボールを奪った江川は、勢いそのままにタッチライン際を一気に持ち上がった。前にスペースがあると見るや、迷わず左足を振り抜く。鋭く伸びたボールは、相手GKの手をかすめてゴールへと吸い込まれていった。
プレーを振り返った江川は少し笑いながら驚きを口にした。
「思い切りいこうとドリブルしたら、相手が寄せてこなくて。だから振り抜きました。私、こんなシュートもってたんだって感じです(笑)」
タンザニア戦で記録した開始早々のゴール。その鮮やかさとは裏腹に、江川には意外な本音がある。
「実は、1stセットで出るのが苦手なんですよ。めっちゃ緊張しちゃうんです。相手を見てから入りたいタイプなので……だからまずは失点しないようにって、そこばかり考えています」
あれほど豪快なゴールを決めた選手とは思えない言葉を、苦笑しながら打ち明けた。しかし、緊張を抱えながらも、ピッチに立てば一瞬でスイッチが入る。そこが彼女の強さでもある。
自身も驚くようなこのゴールを皮切りに、この試合2得点。日本は9-0で勝利を飾り、グループステージ突破を決めた。

タンザニア戦後には笑顔を見せていた江川だが、今大会の第2戦、ポルトガルとの戦いでは、試合後に悔しさを隠しきれなかった。
「相手のディフェンスの仕方をスカウティングしていたなかで、私たちのセットが前からのプレスにハマって失点してしまったので……かなり悔しかったですね」
16分に最初の失点を喫した1分後、自陣でのボール回しの最中に相手にプレッシャーをかけられ、ゴール前でボールロスト。再び相手に得点を許した。その場面を振り返りながら、江川はまた苦い表情を見せた。
ただ、その悔しさは“戦えた”からこそ生まれた感情でもある。
「今までポルトガルと対戦してきたなかでも一番戦えていたので、あと少しという感覚がありました。その上で、全体的な勢いをもっと前半から出せたと思うし、やれることはもっとあった」
2015年に初めて日本女子代表に選ばれてから10年。江川はこれまでに何度かポルトガルと対戦してきた。1年半前のポルトガル遠征では0-5で完敗を喫したが、今回のW杯はその頃とは明らかに違う日本の姿があった。
「あと少しだった」という感覚は、その差を誰よりも感じてきた江川だからこそ生まれたものだろう。あの手応えは、悔しさだけでなくチームとしての確かな自信にもつながっている。
準々決勝の相手は、FIFAランキング1位のブラジルだ。こちらも1年半前の対戦では1-5で敗れている相手。ただし、今回は戦える根拠がある。
江川は迷わず、自分に求められる役割を口にした。
「自分の持ち味は前線でのプレスなので、それを最初から出して、ディフェンスで奪って得点につなげていきたい。オフェンスでも、降りてクワトロの形(4人でのパス回しの形)をつくりながら、前への推進力を出していきたいと思っています」
守備から攻撃へと走り切る江川のスタイルは、タンザニア戦の先制点にも表れていた。
「タンザニア戦のゴールもカウンターからだったので、いいイメージはもてています。ブラジル相手にもビビることなく、前からプレスをかけていきたい」
ブラジルは強く、世界一の壁は高い。それでも日本には、最前線で臆せず相手に立ち向かう9番がいる。江川の“一歩目”が、日本を前へと押し出していく。















