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作成日時:2025.12.04
更新日時:2025.12.04

最初で最後のW杯、筏井りさが流した悔し涙。2回目の夢を描いた“フットサル選手”としての生き様

PHOTO BY伊藤千梅

【FIFAフットサル女子ワールドカップ フィリピン2025】日本 1-6 ブラジル(日本時間12月2日/フィリスポーツ・アリーナ)

12月2日、FIFAフットサル女子ワールドカップ フィリピン2025に出場中のフットサル日本女子代表は準々決勝を戦い、ブラジル女子代表に1-6で敗戦。この結果、史上初のW杯に臨んだ日本はベスト8で敗退となった。

W杯の戦いを経て、アジア女王は現在地を知ることになった。

埋まらない、世界との差がある──。

日本を応援しながらブラジル戦を見守った多くの人がそう感じたはずだ。ゴールシーンにとどまらず、一挙手一投足あらゆるプレーが、実力の違いを感じさせるのに十分なほど衝撃的な現実だった。

選手、監督は、リアルにそれを体感したはずだった。今大会、最年長選手としてW杯に出場した筏井りさは、悔しさを隠すことができなかった。

試合直後、感情を抑えきれずに流した涙。37歳ながらエースとも呼ばれた彼女にとって、サッカーからフットサルに転向してたどり着いたW杯とは、どんな舞台だったのか。

文=本田好伸


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悔しい。まだまだレベルの差がすごくある

試合終了の瞬間、彼女は気丈に振る舞おうとしていたのかもしれない。ブラジルに敗れた直後の表情は崩れることなく前を見つめ、いつもと変わらないようにも見えた。だが、そんなことはなかった。

筏井りさの“2回目の夢”は、終わりを告げた。

サッカーで目指した日本代表には届かなかった。ワールドカップに出場することを夢見たフットボーラーは、サッカーのキャリアを終えた29歳の時、新しく出会った競技に魅せられていった。

フットサル日本代表に選ばれたことによって、彼女はもう一度、夢を追うことを決めた。そしてフットサルを始めてから7年、筏井は悲願のW杯出場を果たした。

今はただ、推しはかることしかできない。少ししたらきっと、この夢のような時間を、笑顔で振り返ってくれるのかもしれない。だが試合直後の彼女は、これまで見せたことのない表情を浮かべた。

試合後、中継に向けたフラッシュインタビューに現れた彼女は、毅然としているように見えた。しかしその顔が、感情を押し殺そうとしているものだということはすぐにわかった。

大会前、筏井はできるだけ“素の自分”に近い言葉で、取材に応じてくれた。日本のエースと呼ばれる選手としての振る舞いは、本当の自分であり、同時に“そうではない”と。

完璧に見えるその姿は筏井のすべてではなく、感情的になることもあれば、うまくいかずに落ち込むことや抜けた一面、仲間にからかわれることもある。しかし、公の場でその姿を見せることはあまりない。周囲がイメージする「かっこいい選手」を自然と意識し、強く見せ続けた。

そんな筏井が抑えきれなかった感情──。

試合を終えての気持ちを聞かれて、こう答える。

「とても悔しいです。ただ内容的にも相手が世界トップレベルで、その差を感じる悔しい試合になりました」

今にも瓦解しそうな表情を整え、絞り出すように話した「世界との差」が、試合直後も脳裏から離れなかったのだろう。実際、日本は、筏井は、何もさせてもらえなかった。

続いて、「初めてのW杯でした。どんな気持ちでプレーしていました?」と聞かれると、その瞬間、筏井の表情が崩れた。もう、感情を抑えることはできなかった。

おそらく「初めて」という言葉に、糸が切れたのだろう。言葉を出そうにも、涙を堪えることができない。筏井は大会前から「最初で最後のW杯になる」と話していた。多くの選手にとって、悲願のW杯は初めてでありながら、また次を目指せる舞台だ。ただ、筏井は違う。サッカーからフットサルへと転向し、再び夢を思い描いた舞台は、その時から最初で最後と決めていた。

こぼれ落ちる涙を拭いながら、彼女は言葉を絞り出す。

「日本のフットサルを今までつくってくださった人とか、今、頑張っている日本のフットサル界のために結果を出したかったんですけど、すごく世界との差を感じて、すごく悔しいです。まだまだレベルの差がすごくあると感じました」

W杯は夢の舞台でありながら、出場自体が目的ではなかった。ピッチに立ち、自分たちの力を証明し、己の実力を世界に示すことこそ、筏井の矜持だった。

果たして、それはできたのだろうか。

以前、筏井に「なぜフットサルなのか?」と問いかけた際に、彼女は熱い想いを話していた。

「選手として取り組む“生き様”だと思います。お金にならなくても、その環境で一生懸命に取り組んでいて、アスリートとしてこの競技に本気になっているみんなのことをリスペクトしていますし、自分もそこにやりがいを感じています。そういう選手たちがいるから、結果を出せばもっと良くなるだろうなって。それは私がサッカーをやってきたからこそ感じることでもあります。自分は、サッカーで結果を残せた選手ではないと思っています。でも、やってきたことには意味がありました。だからそれは、フットサルも同じなんだろうなと。私は途中から入ってきた人間ですけど、そうではなく長い間、この競技を『やりたい』と思って向き合ってきた選手のことを、素直に素敵だなと思います。本当に尊敬しますし、フットサルをつくってきた人たちはめちゃくちゃすごい」

サッカーを引退し、フットサルを“趣味”のように始めた後に、浦安のフットサルを見て、「ちゃんとフットサルをやっている」選手たちへの尊敬と自らの向上心に火がつき、移籍した。

そうして学びを深めるなかで、いつしか筏井自身が“フットサル選手”となり、日本を代表する選手となり、W杯を戦う選手となり、そして、ブラジルに挑む舞台にたどり着いた。

筏井は、自分に厳しい人だ。大会初戦、大勝したニュージーランド戦で「W杯初得点」という後世に残る記録を刻めたが、それだけではきっと、満足できていないはずだ。

「チームが苦しい時に、大事なゴールを決めたい」と常々話していた彼女にとって、本当に決めたかったのは敗れたポルトガル戦であり、準々決勝ブラジル戦でのゴールだろう。

「初めての=最後の」W杯で、筏井が周囲に見せたかったもの、行きたかった場所、見たかった景色。いつの日か願った夢は、もっと具体的な目標となり、気がつけば「世界一」が目的となった。だからこそ、もう二度目と書き換えることはできない現実と向き合った瞬間、彼女の中で「悔しい」があふれ出したのだろう。

筏井が決めたくても決められなかった1点。その現実が、突き刺さる。「筏井ならやってくれる」と期待した周囲の願いは、結果に結びつかなかった。だが、やはり──。

最後の瞬間まで気丈で、凛々しく、貪欲にゴールを目指す彼女は、日本のエースだった。美談だけでは語れない筏井の2回目の夢は「W杯ベスト8」という結果で幕を閉じた。

「ここまで来れたのは支えてくださった方々のおかげなので、本当に感謝しています」

涙ながらに振り絞った感謝の言葉が、試合直後に話せる精一杯だった。

それでもなお、見る者はきっと、その姿に胸を打たれ、同時にこうも思ったに違いない。筏井がゴールを決めてチームを勝たせてくれる。だから何度でも、ピッチでその姿を見せてほしい──。

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