更新日時:2026.02.19
【連載】その4 スペインフットサル事情(運営面)/その5 スペインフットサル事情(実力面)|第8章 関東から一足飛び世界へ|第2部 栄華期|フットサル三国志

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【連載】フットサル三国志|まとめページ 著者・木暮知彦
第2部 栄華期
第8章 関東から一足飛び世界へ(2005年1月~2010年)
その4 スペインフットサル事情(運営面)
その5 スペインフットサル事情(実力面)
その4 スペインフットサル事情(運営面)
スペインの話題が多く出たところで、スペインのフットサル事情について、ここは三国志なので、関東リーグと比較しながら紹介しておこう。まずはリーグの運営面から(なお、比較は当時、すなわち2005年頃とのことである)。
関東リーグと比較するとなるとスペインでは2部リーグが適当である。なぜなら、2部とは言え、3つの地域に分かれており、完全なプロは少なく、学生や働きながら1部を目指す選手が多く、日本の関東リーグとFリーグの関係と似ているからである。チーム数も関東リーグは1部、2部の合計で20チーム、スペインは1つの地域リーグで16チームだからほぼ似ている。観客数も1試合あたり400人から500人といったところである。
しかしながら、根本的に違うところがある。それは、スペインは1部と2部とで入れ替え戦があることである。日本で言えば、関東リーグで勝ち、例えば地域チャンピオンズリーグで優勝したらFリーグに昇格できる仕組みとなっている。むろん、これは日本でも目指す方向性であるが、そのためには、もっと関東リーグ内で地域密着性を高める必要性がある。なぜなら、日本でも昇格した先のFリーグは地域密着、ホーム開催可能な施設の確保を義務付けているからである。この違いは、チーム運営、選手のモチベーションなど根本的な部分で大きな違いとなって現れている。
次なる違いは、完全にホーム&アウェイ方式が確立していて、かつ年間試合数が1チームあたり30試合もあることである。これは、スペインの国土事情、歴史・文化的事情が理由にある。
スペインは、中小の地方都市が極めて多く、元々サッカー文化が発達しているためチーム数が多くなるのは容易に想像できる。そして、地方では交通網が発達していないため、日本の関東のように、そう簡単にセントラル方式の大会を開くことができない。したがって、チーム数を増やして試合数を確保しないとホームチームが地元に登場する機会を増やすことができないのである。スペインに限らずブラジルでもそうだが、地方では日本のように娯楽がいくつもあるわけではない。サッカー、フットサルが極めて重要な娯楽である以上、ホーム開催がわずかということはあり得ない。
かくて、2部のシーズンは8カ月、16チームで年間30試合をこなすというわけである。30試合あれば、そのうちホームが半分であるから、月に約2度のホームゲームを開催できる。ちなみに、スペインでは地元新聞があり、大人の大会はもちろんのこと、子供のフットサル大会も新聞に掲載されるほどの浸透ぶりで、そこには文化がある。
また、ホーム&アウェイ方式は、会場の雰囲気、選手のモチベーションなどリーグの情緒面、ソフト面でも関東リーグとは大きな違いを生み出す。それは、アウェイの試合に乗り込んだ場合、完全に敵地に乗り込む状況になることだ。したがって、移動の疲れの影響もあるが、アウェイで勝つことは至難の技となり、逆にホームで無様な負けを喫しようものなら、これはこれで大変なプレッシャーとなる。実際、ホームとアウェイでは得点力に大きな差があり、少し古いデータになるが、2005年の2部Aでは総得点785点のうちホームが434点、アウェイが351得点で、100点以上の開きがある。結果的には、ホーム&アウェイ方式が会場を盛り上げると同時に、選手に強い精神力、収入面のプロという意味ばかりではない〝プロ意識〟を育てる土壌となっている。
日本の場合は、なかなかそこまでのホーム&アウェイ意識は醸成されにくい。関東となると、大都市の東京周辺という事情、日本人の同質気質などからなおさらである。それでも、各チームの努力で古くは府中アスレティックFCの府中市、フウガの墨田区、カフリンガの東久留米市、柏トーア’82の柏市など、次第に地域密着性を高めつつある。
そうは言っても、ハード面、物理的環境面でなかなか難しい問題がある。まず、関東は人口が集中しているため、体育館にはさまざまなスポーツ、イベントで会場確保の競争がある。フットサルの認知度が上がってきたとは言え、確実に月2回をフットサルで確保することは難しい。しかも、借りるにしてもいろいろな規制がある。
スペインでは元々、夜が遅いこともあって、試合は夜に行われることが多い。終了時間は21時を超えることも予想しなくてはならない。スペインの場合は、試合を見た後に夕食を取るケースも多く、夜だろうが、子供も親も見に来る。また、ビールも売っているし、スポンサーの看板もやたら多い。日本であれば真っ先に環境、教育面でやり玉に挙げられるだろう。
次に、やはり運営資金の問題である。地元での登場回数を増やそうと思えば、試合数は増え、かつホーム&アウェイで分散開催となると、審判費用、会場費用、移動費、すべてにおいてコストが嵩むことは間違いない。むろん、スペイン2部の場合も運営資金の問題は当然あるが、これをパトロンが解決してくれる可能性が高く、日本はまだその可能性が低い。
パトロンとは、地方の〝金持ち〟で、多くは不動産会社、自動車販売会社、家具会社など地元密着型企業のオーナーにして、サッカー、フットサル好きである。本当はサッカーチームのオーナーになりたいが、お金がかかり過ぎるのでフットサルにしたというパトロンも多いらしい。また、地元企業が応援するから当然、市の行政も応援する。そして、市長もサッカー、フットサル好きなのである。日本にも、地方で名をなす地元企業は多いと思われるが、オーナーがサッカー、フットサル好きとなると、歴史が浅い日本としては、その確率はぐっと下がってしまうかもしれない。
例えば、今回のインターコンチネンタルカップ開催地のプエルトジャーノは、人口が5万5千人、マドリードとセビリアを結ぶ新幹線の真ん中近くで停車駅もあるため、〝岐阜の羽島市くらいの都市〟がクラブ世界選手権を開催したイメージである。パトロンと市の応援があったればこそ開催できたのである。
関東リーグのみならず地域リーグからFリーグにエントリーしたチームはこれらの課題を乗り越えて今がある。しかし、地域リーグ全体がFリーグとの入れ替え戦方式かつホーム&アウェイの仕組みに今すぐ移行することは、現段階では難しい。日本の国土事情、文化的事情から考えて、地域リーグは、今のセントラル方式を主体とした仕組みとし、その中からFリーグ昇格チームをさまざまな角度から選考する方式が合理的と言えるだろう。
ただし、将来に備えてセントラル方式の大会形式を維持しつつ、ホームゲームの色彩をもっと強める工夫は必要だろう。例えば、チーム数を増やし、ホームおよびホーム施設を明確にして、積極的に地元施設の開催を増やすなど、リーグ全体として疑似ホーム&アウェイ方式をつくり出すことが考えられる。むろん、地元との協力関係を結ぶこともしなくてはならない。実際、関東リーグは、次第にホームゲーム意識が芽生えつつある。
さて、お宝写真は、木暮が在籍していたナサレノの体育館内の写真にしよう。スペインではよく見られるバールが体育館内にもあるといった感じで、ここでビールを飲みながらフットサルも観戦するのである。完全に生活の一部に溶け込んでいる感がある。

その5 スペインフットサル事情(実力面)
日本代表で最初に監督を務めたスペイン人は2009年6月に就任したミゲル・ロドリゴである。スペインリーグへの移籍も鈴村、木暮、小野の時代から、高橋健介(バルドラール浦安からセゴビア、グアダラハラ)、星翔太(バルドラール浦安からグアダラハラ)、皆本晃(府中アスレティックFCからプエルトジャーノ)、荒牧太郎(バルドラール浦安からカルタヘナ)、佐藤亮(シュライカー大阪からサラゴサ)と引き継がれていった。その後、吉川智貴(名古屋オーシャンズからマグナ・グルペア、ショタ)がいる。また、バルドラール浦安のチャビ、シト監督らにはじまって、名古屋オーシャンズのアジウ(ポルトガルではあるがスペインと似ている)、ヴォスクオーレ仙台で指揮を執ったホセ・フェルンデス監督やペスカドーラ町田を率いたルイス・ベルナット監督もスペイン人であり、指導者面でのつながりも続いている。したがって、スペイン仕様のフットサルが日本には根付いていったと言える。
ここで、スペインのフットサル事情の実力面についても触れておきたい。関東リーグに限らず日本全般と比較しながら紹介しよう。最も興味があるのは、日本とスペインの実力差はどのくらいかということであろう。
独断と偏見で考えてみた(この推察も、当時、2005年〜2010年頃の時代背景を踏まえている)。
個人技術については、少なくとも日本代表クラスではあれば2部では十分通用することは、海外組3人の実績、高橋、星らの実績から証明済みであろう。関東リーグの選手の中で日本代表もしくは日本代表経験者は約2割程度存在するため、甘めにみて3割くらいの選手は通じるという推測が成り立つ。1部で通じるかはもう少し様子を見なくてはならない。もっとも、メンタル面、言葉、環境など別の要素の影響が大きく、実力だけで簡単に通用するものではない。
次に単独チームで戦った場合はどうであろうか。過去の単独チームで戦った実績を見てみると、2003年のプレデター遠征は、1部のバレンシアに0-13、2部のアルバセテに2-8と敗れている。しかし、これは、スペインのローカルルール、すなわち〝スローイン〟で行われたゲームなので参考にはならない。次は2004年のインターコンチネンタルカップのロンドリーナ対カステジョンで、これはローカルルールではないキックインで行われたもので、カステジョンに3-12で敗れている。2005年から2007年までは、奇遇なことにすべてブーメランとの対戦で、ファイルフォックス0-7、プレデター0-8、大洋薬品バンフ0-8で敗れている。もっとも、ブーメランはインターコンチネンタルカップ3連覇、すなわち世界一のクラブチームとの戦いであるから現実的な参考にはならないかも知れない。
むしろ、ボツワナ(のちにフウガドールすみだ、この年度の関東リーグで優勝)が2007年2月に行ったスペイン遠征の結果が参考になるかも知れない。この時は、鈴村、小野が所属するバルガス、タラベラのいずれも2部と戦ったもので、ルールもすでにキックイン方式に移行していたので問題はない。結果は、2-6、0-3であった。
実力の評価にあたって難しい点は、スペインは1チームあたりリーグ戦で年間30試合をこなすことである。日本は関東リーグ1部で年間18試合程度、Fリーグは2009年に10チームになり、ようやく対戦カードを3試合として年間27試合を確保した。その後、12チームになり、年間33試合である。
甘めに見て、Fリーグ上位チームで2部の中位に通じるくらいではなかろうか。もっとも、外国人選手がいるかいないかで大きく変わってくる。日本人選手だけで構成した場合は、もっと厳しい戦いになるだろう。余談になるが、今の外国人を含む名古屋オーシャンズが、インターコンチネンタルカップに出場したらどんな結果を出すか大変興味深いものがある。
では、こんなにも差がついている根本原因は何か。個人技、戦術、フィジカルなどが言われているが……。
2010年頃、関東リーグ1部の会場で、ミゲル監督(1部セゴビアの監督だった)と関東リーグ1部の監督らと懇談会が開催された。その席でミゲルが課題にしたのは「判断力の向上」であった。そして、判断力の向上は、判断を余儀なくさせる状況をつくり出す普段の練習方法が重要と説いた。さらにそれは、子供の頃から学ぶことが重要であり、ゴールキーパーのロングキックやバックパスなどの禁止を訴えていた。
日本とスペインで前述した実力差を生んでいる大きな理由はおそらくこの判断力の差なのであろう。スペインが世界一になった理由は、ブラジルの個人技にチーム戦術を加えたからだとよく言われることだが、そのベースは判断力にあると考えるとミゲルの言葉も説得力が増す。実際、スペインの練習を見ていると、実によく練習中にプレーを止め、その時の判断が妥当だったかどうかを監督と選手がレビューする場面が見受けられる。
スペイン代表監督のハビエル・ロサーノが縁あってファイルフォックスの練習を見た時に言った言葉も判断力に重点が置かれていた。
「ファイルフォックスの練習パターン自体はいいように思う。練習パターン自体はみないいのだ。しかし実際、瞬間、瞬間の細かい部分を見れば、なぜあのプレーをしたのか理由までは外目にはわからない。監督はプレーの瞬間に選手の頭の中に入ることができない。テレビゲームのようなわけにはいかないのだ。大事なことは、瞬間、瞬間、最良の選択ができる判断力、決断力であり、最後はそれを選手が行い、良い選手か悪い選手かは首から上で決まる」
「日本人の課題として個人技の向上がよく言われるが、個人技向上の目的はシュートがうまくなることではなく、プレーの判断の質を向上させるために行うことなのである。なぜ、スペインは、みなが一斉に連動して走るかというと、最良の選択肢を与え、判断の質を上げるためである」
スペイン人監督の2人が同じことを述べていることは興味深い。スペインではトップから子供のクラスまでフットサルのコンセプトが統一された指導が行われているようである。ミゲルが関東リーグの監督と懇談会を持った理由が、代表クラスとリーグとの間で戦術の統一感を図りたかったことからもうかがい知れる。
日本人はよく、勤勉で頭が良い言われるが、ことサッカー、フットサルの判断力となると、まだまだ彼らには遅れていると試合結果から言わざるを得ない。おそらくは、民族固有の特質の問題かも知れない。それはさておき、まずはその自覚、自己分析からスタートすることが重要であろう。いみじくも、ロサーノはファイルフォックスの練習を見た締めくくりでこう述べた。
「今日の練習はどうでしたか?何が良かったですか?何が悪かったですか?良い、悪いとした判断基準は何ですか?」
お宝写真は、まさにインターコンチネンタルカップに来ていた当時スペイン代表監督だったロサーノ監督とファイルフォックスの記念写真にしよう。むろん、この時は、半日とは言え、ロサーノの指導を受けるとは誰もが思わなかったに違いない。














