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作成日時:2020.02.23
更新日時:2020.02.23

天国へ捧げた日本代表“兄弟デビュー”。星翔太と龍太が、父の他界から6日後に立った特別な晴れ舞台

PHOTO BY軍記ひろし

兄・星翔太も、弟・龍太も、いつも通りピッチに立ち、いつも通りプレーして、そしていつも通り、試合後に冷静な言葉をつづった。その変わらない姿がむしろ、2人の想いを強調するかのようだった。

それは、彼らの夢の一つ、兄弟そろって日本代表Aマッチを戦ったことへの感慨、ではない。

天国の父親に勝利を捧げられなかったという、不甲斐なさだ。

星兄弟の父親は試合の6日前、2月13日に突然この世を去ってしまった。

競技に専念させてくれた父の突然の他界

「母親がすごく喜んでくれたのは間違いなくて……実は父親は、大会期間中に亡くなってしまいました。そういうこともあって、僕らとしてはものすごく、難しい状況でした。でもそれを言い訳にするつもりはなかったですし、勝利を捧げたいという想いがあってプレーしていました」

試合後、両親から何かメッセージをもらったのかと尋ねると、翔太はそう話した。いつもと変わらない淡々とした表情で語る姿に、こちらが逆に、動揺した。かろうじていつのことかと聞き返すと、少し離れた場所にいた龍太に、「何日だっけ?」と問いかける。龍太は「13日」と答えた後、向き直ってこう続けた。

「(話すかどうかは)全部、兄貴に任せていたので」

実は、取材のミックスゾーンでは、翔太よりも先に龍太に話を聞いていたのだが、彼の口から父親の話題が出ることはなかった。兄弟での日の丸デビューについて聞いた際には、こう話していた。

「他にはないことだし、特別な思いがあります。夢見ていたことですから。この試合だけでなく、アジア選手権、ワールドカップでも一緒にやりたい。ただし、僕が食い込まないといけない立場。自分の夢、そして親の夢を叶えたいと思います」

もともと両親が待ち望んでいたことに違いないはずだが、父親の死は、兄弟の想いをより強くさせた。いつでも、父親が自分たちの背中を押してきてくれたからこそ、ピッチに立たなければならなかったのだ。

「めちゃくちゃ真面目で、本当に何を聞いても答えてくれるような人。仕事も家のことも、僕らがサッカーに集中できるように、何もしないでいいように母親と協力して整えてくれた。僕らがここにいられるのは父親がいてくれたからだと思いますし、真摯に取り組めるのは、父親から受けた影響があります。『男は黙ってやることをやれ』という姿勢でしたし、とにかく物事に向き合い続ける。感情を出さずに、悪いことをすれば無言で怒られる。そういうところを含めて、口を出すよりもやるべきことをやれという感じでした」(翔太)

男は黙ってやることをやる。そういう父親の姿が、彼らを突き動かしたのかもしれない。

「病気でしたが、兆候があったわけではなく、突然のことでした。僕らの覚悟だけではなく、チームメートも、ブルーノも、スタッフもサポートしてくれたからこそプレーできた。チームには感謝しかありません」(翔太)

翔太と龍太は、まるで何事もなかったかのように、少なくとも試合を見た者が誰もその変化に気づかないほどいつものように、プレーを続けた。そして試合開始から7分30秒、2人は同時にピッチに立った。

「感慨深かったですね。クラブレベルではどちらかが同じチームを選べば可能性はありますが、代表は選んでもらえないと入れない。代表自体が特別ですけど、改めて特別な瞬間だったと思います」(翔太)

試合後、スタンドに向かって挨拶をしていると、会場に足を運んだ母親から「残念だったね」と一言、声をかけられたという。「ここがスタートだと思う。親の期待に応えないといけない」と、龍太は誓った。

パラグアイ戦は、ブルーノ・ガルシア監督が多くの組み合わせを試しながら戦うなかで、星兄弟がそろった時間は決して多くはない。5回の同時起用のタイミングがあったが、時間にして4分ほどのことだった。

「(翔太が)気を遣っているなというのはあります。僕が代表のシステムをちゃんとやることでもう一つ上のコンビネーションになる。兄貴がいると、他のピヴォよりもそこを見る回数が多くなるし、逆に翔太がサポートしてくれる回数も多くなるので、そこは兄弟ならではのものがある。僕がもっとボールを持てるようになれば、さらに違った高さやポジションでいい関係性を作れると思います」(龍太)

「ここで負けて受けたダメージと、負けたなかで得たもの、自信を持っていいものが明確になったので、そこを今度は、代表ではなくクラブとなりますが、頭を整理して、日本代表にどう貢献できるかを考えながら結果を出すことに集中する。それが代表でのいいパフォーマンスにつながると思っています」(翔太)

代表チームは一度解散して、延期されたアジア選手権の開催を待つ間、彼らはクラブで研鑽する。淡々黙々と、やることは変わらない。自分のために、兄弟のために、家族のために、そして父親のために──。

星兄弟は、2人でW杯のピッチに立つことを目指し続ける。


星翔太選手、龍太選手のお父様のご冥福をお祈りいたします。
SAL編集部

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