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作成日時:2021.03.10
更新日時:2021.03.10

【コラム】Fリーグはなぜ“炎上”したのか。「無意味な入替戦」を引き起こしたクラブライセンス対応の問題点

PHOTO BY高橋学

今、フットサル界が荒れている。

少なくとも、フットサル関連のフォローが多い僕のタイムラインは、一つの話題でもちきりだ。もはや、このテーマに触れないわけにはいかない想いにかられるほど心がざわついている。

「トルエーラ柏のF2ライセンス交付」

3月9日(火)17時30分、Fリーグから発表された1本のリリースが事の発端だった。

「トルエーラ柏の2021年度のライセンスについて、Fリーグが定めるF1ライセンスの競技基準を満たしていないことからF2ライセンスを交付することが決定しましたので、お知らせいたします」
http://www.fleague.jp/news/?p=53248

このリリースを伝えたFリーグ公式Twitterは、(少なくともフットサル界では)ものすごい勢いで拡散された。10日(水)0時の時点で500件近くリツイートされた投稿のうち、半数以上がコメント付きで引用されている。

「ありえない……」「うそっ!?」「柏がかわいそう」「柏をF1で見たい」

柏が全日本選手権で優勝し、いざ週末の入替戦へというタイミングだったことも重なり、フットサルファン、柏のファン・サポーターの嘆きや怒りの声であふれている。なかには、元Fリーガーの声も発信されている。

「ライセンスの基準を公表してほしい」「入替戦やる意味ないよね」「これではいつまでたってもリーグが盛り上がらない」「なぜこのタイミングの発表なのか」

感情的な意見、冷静な見解、さまざまな憶測……いったい、Fリーグに何が起きているのだろうか。

「F2ライセンス交付」自体は非難されるものではない

まずは、事実だけを伝えようと思う。

① 9日に発表されたFリーグのリリース
「トルエーラ柏はFリーグが定めるF1ライセンスの競技基準を満たしていないことからF2ライセンスを交付する」
② Fリーグの入替戦実施概要の記述
「本大会を開催するにあたり、参加するF2チームにF1クラブライセンスが付与されていない場合でも本大会は実施する」

つまり、ライセンス交付の有無にかかわらず、入替戦が開催されると明記されている以上、規約違反には当たらない。それにもかかわらず今回の出来事が物議をかもしている理由は、大きく2つのポイントが考えられる。

① 入替戦前の発表というタイミング
② Fリーグクラブライセンスの基準が公表されていない

加えて、9日の11時に、Fリーグ公式Twitterアカウントが「柏のF2ライセンス交付」を先出し(すぐに削除)してしまったことで、ユーザー心理が揺れているということも、今回の“炎上”を加速させている要因だろう。

クラブライセンスとは本来、健全なリーグ運営を目指すために制定されていることを考えても、柏に「F1ライセンスが交付されない」ことで残念に思う心情は理解しつつ、真っ当なリリースであることは否定できない。

それでも、先に挙げた2つのポイントが理由で、看過できない事態に発展している。

昇格できない無意味な入替戦をなぜ実施するのか?

ディビジョン1・ディビジョン2 入替戦は、今週末の13日(土)、14日(日)に開催される。今回のリリースにより柏のF1昇格の可能性が消滅したことを考えると、入替戦の目的が限りなく無意味になることは間違いない。

Fリーグがシーズン当初から明文化していたとはいえ、その状態で実施する意味とは何か。そもそも、「参加するF2チーム(F2優勝チーム)にF1クラブライセンスが付与されていない場合は実施しない」ではダメなのか。

入替戦の前に発表されたために、この一文がクローズアップされることになった。

たとえば、昨シーズンのJリーグは、2020年9月時点で「Jリーグクラブライセンス判定」がリリースされている。昨シーズンはコロナ禍のイレギュラーのために入替戦は実施されなかったが、通常、2月〜12月に開催されているJリーグの場合、入替戦は12月に開催される。2019年のJリーグには、次のような一文が明記されている。

「J3における年間順位の上位2クラブのいずれもがJ1クラブライセンスもしくはJ2クラブライセンスの交付判定を受けていない場合には、J2・J3間の入れ替えは行わない」
https://www.zelvia.co.jp/news/news-133485/

当然、ストレートに昇格できるJ2ないしはJ3優勝を飾った場合でも、入替戦に出場できる順位になった場合でも、上位カテゴリーのライセンスが交付されていなければ、入替戦に出場することはできない。

実際、Jリーグでは、この条件に該当したケースがあった。

2017シーズンにJ3を優勝したブラウブリッツ秋田は、J2ライセンス取得に必要なスタジアム基準を満たしていないことを理由に、J2ライセンスの申請を出さないことをシーズン中に発表していた。上位2チームがJ2に自動昇格というレギュレーションだったが、このシーズンは昇格枠が減少し(3位が繰り上げで昇格しない)、2位になった栃木SCのみJ2へ昇格した(その後、秋田は2019年から2年連続でJ2ライセンスが交付され、2020シーズンに優勝して今シーズンからのJ2昇格を果たした。Jリーグのクラブライセンス審査は毎年行われ、毎年交付される)。

その秋田と同様、今シーズンからJ2に昇格したSC相模原は、これまでJ2ライセンスを保有していなかったため、「優勝しても昇格できない」という状況にあったが、2020年9月にライセンスが交付されたことで道が開け、交付決定以降の試合から18試合無敗という破竹の勢いで上昇し、最終節でJ2昇格を決めたという事例もある。

Jリーグの基準で考えるなら、クラブライセンスの交付は、シーズン中盤に発表されるべきものだろう。

Fリーグでは、ボアルース長野が2020シーズンのF1昇格を決めた際も似たような出来事があった。F2で優勝した彼らは、F1で下位に沈んだアグレミーナ浜松との入替戦に勝利したものの、2019年2月24日の試合後に発表されたFリーグのリリースにはこのように記されていた。

「Fリーグクラブライセンス基準に基づき3月13日(水)に開催するFリーグ実行委員会にて審議を行い、最終決定いたします」
http://www.fleague.jp/news/?p=42987

つまり、20日近く「F1昇格権獲得」状態で待たされていたのだ。仮に、長野にF1ライセンスが交付されなかった場合はどうなっていたのか。おそらく、今回と同じように物議をかもしていたはずだ。

トップリーグにおいて、もっとも不透明なリーグ

もう一つ、波紋を広げているのが「クラブライセンスの基準」だ。「Fリーグクラブライセンス」が制定されたのは、F1・F2の2部リーグ制となった2018シーズンからだが、当時から具体的な中身は公表されていない。

今回のリリースで、「F1競技基準」を満たしていない項目は何か、また、そもそもクラブライセンスの基準、および項目はどのようなものか明らかになっていれば、少なくともこれほどの騒ぎになっていなかっただろう。

Fリーグを開催する日本フットサル連盟は2018年1月、「フットサル中期ビジョンと2018/2019シーズン以降の取り組みについて」という記者会見を行い、そのなかで「Fリーグクラブライセンス制度の導入」を掲げ、以下のようにその目的を発表している。

「現在の12クラブや新しく加盟する7クラブのみならず、地域リーグを勝ち抜き将来のFリーグ加盟を目標とするクラブが、トップリーグ加盟のために、競技力だけでなく、試合会場となる施設、クラブ運営法人に関する組織面、財務面、法務といった各基準を満たすことを定めました。Fリーグクラブクラブライセンス制度の導入は、Fリーグへの参加基準を明確化し、ホームタウンとなる市町村との関係をより強固にして、地域に根ざす健全なクラブ経営に務めることでトップリーグの活性化を図っていくことを目的としています」
https://www.fleague.jp/news/?p=40110

こう伝えている以上、「Fリーグへの参加基準を明確化」していないことは明らかだろう。

では、Fリーグも所属する日本トップリーグ連携機構の実態はどうだろうか。

トップリーグ連携機構におけるクラブライセンス制度の有無
・Jリーグ:Jリーグクラブライセンス制度
・なでしこリーグ:なでしこリーグガイドライン ※Jリーグクラブライセンス制度に準じた制度
・Vリーグ(バレーボール):Vリーグライセンス交付規則
・Bリーグ:Bリーグクラブライセンス
・Wリーグ(バスケットボール女子):なし ※リーグ参加のための会員規定
・日本ハンドボールリーグ:なし ※加盟団体規程
・ジャパンラグビートップリーグ:なし ※リーグ加盟資格および要件
・アジアリーグアイスホッケー:なし ※チームの参加資格要件
・ホッケー日本リーグ:なし ※新規リーグ加盟チームに求めること
・日本ソフトボールリーグ:なし ※規定
・Xリーグ(アメリカンフットボール):なし
・Fリーグ:なし ※一般財団法人日本フットサル連盟 登録規程

ボールゲーム9競技12リーグからなる連携機構は、実業団・クラブチーム混在であったり、プロ・アマの参加も多様であるため一概に比較できないものの、どの団体もほぼ「規定」を定め、開示している。加盟費の有無や金額、オーナー会社の規模、予算計画、ホームタウン活動など、様々な項目が記されているが、もっとも踏み込んだ詳細まで開示しているのがJリーグであり、彼らがトップリーグ連携機構の道標のような役割を担っている。

では、Fリーグはどうなのか。

残念ながら、上記の「登録規程」は簡易的なものにすぎず、クラブライセンスの全容は何一つわからず、「Fリーグ クラブライセンス」「Fリーグ 規定」などと検索しても明確な文書を見つけることができなかった。

Jリーグをはじめ、トップリーグ連携機構の横のつながりに学び、見習えることはいくらでもある。リリースのタイミング、内容の開示。特にこの2つは、大いに見直すべきポイントではないだろうか。

Fリーグを運営する構造上の問題なのか?

結局、公開されないこと、後手後手になることなどが、ファンの不信感を募らせてしまっている。

表に出てこないことで、憶測が憶測を呼んでしまう。もはや善悪の話ではなく、公開できない理由があることは間違いないが、Jリーグにできて、他のリーグにできて、Fリーグにできない明白な理由が見当たらない。

万一それが、誰かの利となり、誰かの損となることが理由であれば、これほど不透明なことはないだろう。いつの時代の倫理観でも同じかもしれないが、このSNS全盛期ではなおさら、ブラックボックスには非難が集まってしまう。

では、公表できないのは、リーグの構造の問題だったりするのだろうか?

現在、Fリーグは(ものすごく大雑把にまとめると)以下のような組織体制に組み込まれて運営している。

日本フットサル連盟の登場人物は、大立目佳久会長以下、専務理事、副会長、理事、FリーグCOOおよび代行、日本フットサル連盟およびFリーグ事務局が中軸であり、Fリーグにおいてはさらに、Fリーグ実行委員会という意思決定グループが存在する(参考:「2020年度・2021年度の役員について」)。

明確な線引きは定かではないが、リーグのビジョンや大きな枠組みは、実行委員会+理事会の承認を経て決定し、試合運営レベルは、リーグおよび各クラブのGMが軸となるFリーグ実行委員会で決定することが通例だろう。

たとえば、FリーグCOOの就任、リーグの中長期ビジョンの決定は、実行委員会+理事会の流れで決まり、カップ戦やリーグ戦の試合日程、今シーズンのようにコロナによる延期などの決定は実行委員会の判断に基づく。

今回の件でいえば、リリースには「3月7日(日)に開催した一般財団法人日本フットサル連盟の理事会において」とあるように、クラブライセンス制度の承認は、リーグの枠組みにも関わる重要な決定フローであるはずなのだ。

意思決定に関わる人が多ければ多いほど時間はかかるし、コロナ禍のイレギュラーもあったかもしれない。

とはいえ、中長期ビジョンを明言して導入した制度の成り行きを、フィードバックがないまま“放置”していいはずはないだろう。現在、日本フットサル連盟では、2020年12月から複数回の「スポーツ庁・ガバナンスコード検討委員会」という協議を始めている(参考:「「ガバナンスコード検討委員会」活動報告」)。福村景樹FリーグCOOと松﨑貴之総務主事を中心に、各クラブ実行委員数名がメンバーとなって「未来プロジェクト」を立ち上げ、「ガバナンス推進整備方法」、「基本方針/ミッション・ビジョンの策定」、「中長期目標および中長期計画」、 「組織整備およびガバナンス推進整備方法」といったことを話し合っているという。

「ガバナンス=統治」という理解でまとめるならば、Fリーグを運営する組織の規範や指針を決め、組織内に浸透させる管理体制の話し合いであり、簡潔に言えば、「ちゃんと決めて、ちゃんとやろうぜ」という取り決めである。

制度やリーグの不透明性が問題視されているのであれば、その課題と向き合い、一時的であれ結論や経過を示していく(=オープンにする)姿勢は必要であり、「Fリーグ=興行」という前提で言うならば、フットサルを楽しむファン・サポーターが抱く違和感、不信感に敏感であるべきだろう。

Fリーグとは、誰のためのものなのか。

選手、スタッフ、スポンサー、ファン・サポーター、リーグ、メディア……。おそらくそのすべてだ。フットサルには、他の競技に負けないくらいの魅力がある。

選手は、己のレベルを上げ、自分の価値を高め、人々に勇気や感動を与えられる。クラブは、競技の魅力を伝え、地域や企業とのつながりを広げ、子どもたちに夢や希望を届けられる。スポンサー企業は、クラブを通して自社の価値を上げ、従業員のモチベーションを高め、なおかつそれが社会貢献となる。地域住民は、選手やクラブとのつながりを通して“オラが街の誇り”を感じ、地元愛を深めることができる。ファン・サポーターは、選手のプレーに一喜一憂し、喜怒哀楽を味わい、熱狂と興奮を体感できる。フットサルは心を揺さぶり、人々を豊かにしてくれるものだ。

そしてリーグは、関わるすべての人をつなげ、競技の魅力を最大化できる存在だ。

今こそスポーツの本質を見つめ直し、組織のあり方を考えるべきときかもしれない。

柏の選手、社長による“無言のメッセージ”

フットサル界隈を取り巻くマイナスな広がりを感じたことで、事実を軸にまとめてきた。

だが、ここには“当事者の声”を何も記していない。

Fリーグは、この事態を受けて何を考え、どのように対応するのか。明かせるのであれば、クラブライセンスとはどんな基準なのか。明かせないのであれば、それはなぜか。少なくとも、問いかけなければいけない。

そして、「F1ライセンス不交付」を提示された柏側の見解は、どうなのか。

最後まで交付を信じ、かなわなかっただけなのか。希望が少ないなかでの戦いだったのか。何がいつ、どのように明らかになり、その間、誰が何をしてきたのか。選手・監督はどんな境遇だったのか。そして今、何を思うのか。

SNSのアカウントをもつ選手は、9日の夕方から「ブラックドットキャンペーン」を始めた。

手のひらに黒い点を書き、それを見せる行為だ。本来、家庭内暴力を受けた人が無言の訴えを示すジェスチャーを意味するため、このアクションも賛否が分かれているが、メッセージが込められていることは間違いない。

そして、クラブの大栗崇司社長だけは投稿に文字を添え、このように発信した。

「F1ライセンスが取得できず、非常に残念。非常に残念。我々は最後までF1ライセンス取得を見込んでいた。「基準とは」「ライセンスとは」自問自答をし続け、自らで答えを探すしかないのか。この涙はどこへ流れていくのか。我々が今すべき事は今シーズン公式戦無敗の王者で終わる事。逃げない事」

この短文ですべてを判断できないが、大栗社長の無念の想いは届けられている。ただし、ここでも明白なのは、現時点で、交付の背景にある事実は何もわからないということだ。

今、フットサル界は大いに荒れている。

Fリーグは、我々フットサルファミリーにメッセージを伝えてくれるのだろうか?

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