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作成日時:2024.03.14
更新日時:2024.03.23

「もう一度この場所に」再戦を誓う“寡黙なストライカー”|大阪・野村悠翔 #人生に刻むラストゲーム

PHOTO BY高橋学、本田好伸

今大会一の接戦となった、シュライカー大阪と立川アスレティックFCによる準々決勝。

2-2のまま決着はつかず、勝敗の行方はPK戦に託された。

静まり返る会場で、大阪はGKとポストに阻まれ2本のシュートを決めきれず、ベスト8で大会を去った。

試合を終え、すでにクラブからの退団が発表されている齋藤日向と計森良太の2人の生え抜き選手が、取材に応じる。その後ろでチームメートと談笑しているある選手の姿を見かけ、思わず呼び止めた。齋藤と計森と同じく今シーズン限りでの退団が決定している野村悠翔だ。

これまで野村に取材をしたことはなかったが、ピヴォとは思えないほど物静かな性格をチームメートからよくいじられていることだけは知っていた。

大阪で2年間を戦った、“寡黙な点取り屋”はどんな人物なのか……。

そんな動機で声をかけてみると、思いもよらない今後の野望と、ポーカーフェイスに隠された思いを語ってくれた。

取材・文=青木ひかる



“味方だけどライバル”という意識で

遡ること7年前。高校を卒業したばかりの野村は、地元・岐阜県の2部リーグを戦うサリスタに加入し、競技フットサルの世界に足を踏み入れた。翌年には、東海フットサルリーグ1部を戦うロボガトフットサルクラブに移籍し、2019年に名古屋オーシャンズサテライトへ。2年間の“修行期間”を経て、2021-2022シーズン開幕を前に念願のトップチーム昇格を叶えた。

地域リーグから這い上がり、“Fリーグ最強軍団”の一員となった野村。順風満帆かと思えたキャリアだったが、現実はそう甘くはなかった。

「それまでは、点を取る自分に周りの選手もパスを集めてきてくれました。でも、名古屋ではそうはならない。プロクラブである以上、メンバーに生き残るためにみんな必死で、一人ひとりが自分の良さを出そうという意思がとても強い。なので、サテライトでは自分のところに来ていたパスが、全然回ってこなくなってしまって……。最初はすごくストレスでしたけど、途中からは『負けないように頑張ろう』という気持ちに切り替えて、ポジションを奪うために“味方だけどライバル”という意識を強く持って、ずっと練習や試合に取り組んできました」

反骨心を糧に少ない出番でも力を発揮することを心がけ、2ゴールを決めたものの、出場時間は伸び悩んだ。

「もっと試合に出たい」

野村は1年での退団を決意。リーグ設立から16年間で唯一名古屋からリーグタイトルを奪った大阪へと、活躍の場を移した。

出たら点を取るのは当たり前のこと

Fリーグデビュー後初めての移籍。想定よりもフィットに時間はかかったが、リーグ後半戦になると徐々に二人組の関係を構築し次第に点が取れるようになった。加入2年目の今シーズンは、より「自分らしい形」で得点を取ることができたと振り返る。7月に行われたアウェイ名古屋戦では、左ポストと相手GKの手の隙間を刺す鋭いシュートを放ち、みごと古巣相手に勝ち越しゴールを決めてみせた。

「あの試合は、地元の友達や小さいころからお世話になった方も見に来てくれていました。そういう人たちの前で点が取れたことはもちろんうれしかったですけど、1点は1点。僕は普段からあんまり感情を表に出さないタイプだし、喜び方もいつも通りだったかなと。どんな試合でも『出たら点を取るのは当たり前』というのは意識でプレーしています」

ゴールを決めても勝ちきれず下位を彷徨った昨シーズンに変わって、今シーズンはより勝利に直結する得点を増やし、ピヴォとしての役割を全うした。



次なる目標は「打倒Fリーグ」

そんな矢先に発表された、クラブからの退団リリース。SNS上では新天地について様々な憶測が飛んでいたが、野村は取材中にさらりと自身の進退を口にする。

「実は、自分で会社を立ち上げようと思っていて、そのために地元の岐阜に帰るんですよ。なので、Fリーグはここで一旦『引退』という形になります」

発表を「引退」ではなく、「退団」としたのにはある理由があった。

「岐阜に戻っても地域リーグでフットサルは続けるつもりなので、そこは『退団』とさせてもらいました。もともと大阪とも2022シーズンから2年での契約でしたし、延長の話もする前から少しずつ将来のことも考えて、自分で岐阜に戻ることは決めたんですけど、リーグ戦も後半戦はあまり出れなかったし、そこだけはやっぱりちょっと心残りです」

公言していなかったものの、実質、“Fリーガー”として最後の試合となったこの準々決勝。野村は、惜しくもPKを外してしまった。試合終了の瞬間に、同じく失敗した磯村直樹が泣き崩れる一方、野村は表情を崩さなかった。しかし、かなりの“負けず嫌い”であることは、ここまでの話を聞く限りでも十分に伝わる。感情的にこそならなかったものの、きっといろいろな思いで、試合終了の笛を聞いていたはずだ。

筆者の「Fリーグではもうやり切ったという思いですか?」という問いに対して、野村は力強くこう答える。

「今は仕事を頑張りたいなという気持ちがありますけど、安定してきたらまた戻りたいと思うかもしれないですね。ただ、僕としてはまず新しく入るチームでも全国を目指して、もう一度この選手権の舞台に戻ってきたい。下から這い上がってFリーグのチームを倒して、自分の力を見せつけたいですね」

キャリアの一区切りとなるラストマッチでの悔しさを胸に、“寡黙なストライカー”は「打倒Fリーグ」を誓い、駒沢のピッチを後にした。



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