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作成日時:2018.08.10
更新日時:2018.08.10

加藤未渚実という“思考型の天才”が大ケガから完全復活。いまだ発展途上のドリブラーが目指す最終形態とは?

PHOTO BY軍記ひろし

世界中のフットボールファンに、「最高のドリブラーは誰か?」と問いかけたら、きっと圧倒的な得票率でリオネル・メッシが1位に輝くだろう。誰が見ても明らかなほど突出した技術に、多くの説明はいらない。

では、日本のフットサルファンに「最高のドリブラーは誰か?」と問いかけたらどうなるか。きっと票数が割れるに違いない。ただ一つ言えるのは、シュライカー大阪の加藤未渚実がトップ3に入るだろうということだ。

25歳の天才ドリブラーは今、ピッチで圧倒的な輝きを放っている。

全治9カ月の大ケガからの復活

8月5日に行われたFリーグ第8節のヴォスクオーレ仙台戦、右サイドでボールを持った加藤は、1対1で相手を交わすと、すぐさま左足でファーサイドにシュート性のパスを送ってチアゴの先制ゴールをアシストした。

「(逆サイドにいた相手のフィクソの)荒牧(太郎)さんがカバーに動いてきていたけど、(目の前の相手を)抜いた瞬間にはまだ遠かった。普通にパスを出したら足に引っかかってしまうので、少し浮かせたトーキックを早いタイミングで出したら、チアゴがうまく合わせてくれた。イメージ通りだった」

試合開始わずか42秒の先制ゴール。ドリブル突破して自らゴールを奪うだけではなく、味方に決定的なパスを送ることもできる。加藤は左利きであり、まさにメッシのような技術を武器にピッチで躍動している。

しかし、そのプレーは“加藤未渚実史上、最高”ではない。彼の100パーセントは、もっとキレ味がある。

名古屋オーシャンズを打ち負かしてリーグを初制覇した2016シーズン、当時23歳で、Fリーグ入りしてからまだ2年ほどの新人は、圧倒的なスキルと天才的なドリブルでピッチを縦横無尽に切り裂いていた。

しかし2017年1月、全治9カ月と診断される前十字じん帯損傷の大ケガを負ってしまった。日本代表にも選出され、これから一気にステップアップしていくところだった。リーグ戦では29試合で22得点を挙げて、結果的にリーグ制覇することになったプレーオフファイナルの後の表彰式では、ベスト5に選ばれて壇上に立っている。順風満帆だった彼のフットサル人生は、ここで一度、足踏みすることになった。

2017年12月、戦線復帰した加藤は、すぐさまゴールを奪って復調をアピールしたが、軸足に負ったケガの影響は、彼にしかわからない“違和感”を残していた。「もう、以前と同じ状態には戻らない」と嘆いていたこともあった。繊細なボールタッチを得意とする加藤にとって、わずかな感覚のズレが命取りでもあった。

「周りは自分に対して以前のようなイメージを持っているし、そこに近づけない限り満足してもらえない。最低でも、当時の100パーセントを出せるように意識しながら、今はやっています」

「ドリブル」というと、単純な1対1の勝負をイメージすることが多いだろう。加藤自身も、「味方のサポートや相手のカバーリングが見えていなかった」と、以前はとにかく1対1で仕掛けまくっていた。しかし、現代フットサルのドリブルは完全な1対1ではなく、あくまでも5対5の一つの局面として捉えられている。

「全部、仕掛けた方が(相手からすると)怖いと言われることもあるけど、僕はいける時にはいって、ダメな時には素早く判断して他の人を生かすことを考えている。それができるようになったことが、当時と今の違いかもしれません。最近、またそこを見失っていたのですが、改めて全員の動きを把握しながらやる意識を持ってやっていることで、最低限のパフォーマンスを出せるようになってきました」

23歳でブレイクした最高のドリブラーは、今ようやく、かつての“スタートライン”に戻ってきた。ここからは「加藤未渚実第二章」の幕開けだ。彼自身は単なる「ドリブラー」で終わるつもりはない。

「チームとして、(左サイドの縦に3人が並んで)右サイドで1対1の勝負ができる形を作ってくれるので、そこは引き続き僕の仕事です。ただ欲を言えば、ピヴォもできたらいいですし、4人で連動する動きについてももっと戦術理解を深めていって、フィクソのような動きもできたらいいなと思っています」

今のポジションは「アラ」。サッカーで言えば3トップの右かサイドハーフ、ウイングのようなポジションだ。「ピヴォ」とはポストプレーができて自らゴールを奪えるセンターフォワードで、「フィクソ」はセンターバックやビルドアップの舵を取るボランチをイメージしてもらえるとわかりやすいだろう。

戦況を冷静に見極め、対人勝負では感覚的にプレーできる“思考型の天才”、加藤未渚実。いまだ発展途上のドリブラーが目指すのは、一人でピッチ全域を支配してしまうような、そんなスペシャルワンなのだ。

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