更新日時:2026.04.14
大手企業の営業マンとして“デュアルキャリア”を完遂した原辰介、PK失敗→優勝という“原らしい”花道「幸せすぎる現役生活だった」【第31回全日本フットサル選手権大会/インタビュー】

PHOTO BY本田好伸
3月22日、第31回全日本フットサル選手権大会の決勝、バルドラール浦安vsペスカドーラ町田が東京・駒沢オリンピック公園総合運動場 体育館で開催。2-2で延長にもつれ込んだ試合は決着が着かず、PK戦の末、町田がPKスコア4-3で勝利。前身の「カスカヴェウ」時代を含め町田がクラブ史上3度目の大会制覇を果たした。
この試合が現役最後となった原辰介は、まさに有終の美を飾った。町田→浦安→町田とキャリアを渡った彼にとって、古巣相手の決勝での戴冠は、特に意味深いものとなった。原はキャリア当初、“高学歴プレーヤー”としてピッチに立っていた大学院生時代を経て、2019年からは大手企業への就職を決めた社会人プレーヤーとして“デュアルキャリア”を歩んできた選手でもある。
就業先の味の素株式会社では、営業職で日本一の成績を収め続けながら、仕事でも、競技でも一流を追求してきた「エクストラタイム」の7年間の戦いは、彼にとって「幸せな時間」だったのだと言う。
表彰式を終え、ロッカールームでの着替えを終えて取材エリアに現れた原を取材陣が囲むと、彼は最初から最後まで笑顔で、何一つ悔いのないやりきった表情で、町田での最後のインタビューに応じた。
※取材は3月22日に実施
PKを止められたのも、これもまた人生

──優勝おめでとうございます。どんなお気持ちですか?
めちゃくちゃうれしいです。もうこれ以上ない。感無量です。
──すごく難しい試合でしたけど、原選手にとって最後となる試合に勝つ自信はありましたか?
ありましたね。0-2になっても、たぶん追いつけるし、逆転できるだろうなと、ずっと前向きな気持ちでした。ただ個人的な感覚では、どんな結果になっても受け入れるつもりではいました。
──クラブとして2016年大会で優勝した前回を経験しているのは原選手だけでしたね。
そうでしたね。ミーティングでも、監督が「このクラブでタイトルを獲っているのは原だけだ。ただ、大会が終わった時にはみんなが獲っている」と話していました。僕も2回目を獲りたかったし、みんなにタイトルを獲る喜びを経験してほしいなという気持ちでした。

──現役最後の試合を優勝で締めくくり、応援してくれた方たちもみなさん喜んでいると思います。どんなことを伝えたいですか?
本当にみなさんの支えとサポートがなければできなかったので、まずは感謝ですね。チームもそうだし、職場、家族、みなさんの理解がなければ本当にできませんでした。本当は2019年に現役を終える予定だったので、そう考えると7年間のエクストラタイムをもらいました。長すぎるし、濃密すぎるし、本当にみなさんのおかげで戦えた幸せな現役生活でした。
──今シーズンで現役を引退する選手はみなさんそうですけど、まだやれるというパフォーマンスを示して去っていく選手が多いですよね。原選手もこの最後の舞台で先発メンバーに入って、まだまだ俺はやれるぞという姿を見せて去っていきます。
本当にそうだと思います。(森岡)薫さんも吉川(智貴)さんも、皆本(晃)さんもそうですけど、みなさん本当にまだまだやれそうですよね。僕も、ルーカス(・キオロ)監督のフットサルをもっと完成度高く体現して、みんなとリーグタイトルを獲得したいという強い思いはありますし、続けたかったのですが、職場の関係もあって。残念ですけど、悔いなくこのチームを去れるので幸せです。
──最後、優勝が決まる状況でのPKは決めたかったですね(笑)。
決めたかったですね、本当に(笑)。実は、僕はPKを外したことがなくて。代表でもアジアインドアゲームズでも一番に蹴っていて、「PKって誰でも決めれるじゃん、俺でも決められるしラッキー」みたいな感じで捉えていたので、決めれられると思っていました。
蹴る時も全然緊張していなくて、最後に古巣の浦安とやれて、決勝で今日、俺がPKを決めたら終わりかと思って、本当にみんなありがとう、最高だよ、みたいな。もう、ガッツポーズの準備までしていましたから。
蹴る方向も決めていて、(ピレス・)イゴールも昔、町田で一緒にやっていたのでもしかしたら(自分がいつも蹴っている方向を)覚えているかなっていうのもありましたけど、関係ねぇだろ、打ち込むしかないって蹴ったんですけど、全然、思った方向と違うところに飛んでいった。これは引退だなと思いました(笑)。
右上を狙ったんですけど、真ん中のゴロだったので、3日間の疲れが出ましたね。緊張もなかったから。右上しか蹴ったことがないし、そこを狙っていたんですけどね。


──キッカーは手を挙げた?
そう、ルーカスが今週の初めにPKの順番を決めると言っていたのに、決めなかったんですよ。それでいざPKになって、順番どうする?って。それで4番目まではルーカスが指名して、5番目は誰が蹴る?ってなったから「はい、はい!」って。これチャンスタイムじゃん、5番目って一番おいしいじゃんって、手を挙げたんですよ。それで、6番目以降は決まってなかった。蹴りたいという人もいなかったから。
まあ、俺で終わるし6番目以降はいいかと思いながら(ボールを)置いて。でも、本当に思ったのが、浦安と現役最後の日に決勝で、PKで、その結果、勝ってということを考えると、PKを止められたのも、これもまた人生だなって。これで僕が決めて勝ってたら、できすぎている。これもまた人生だなって、すごくポジティブに捉えられた経験になりました。

──監督は「(PKを外した)カオルとシンスケがいなくなるから、来季からPKは負けない」と。
そうなんですよ。(ロッカールームで)わざわざ話を締めた後に、ちょっといいかってその話を(笑)。
──選手としては環境が整っているプロとしてプレーすることも重要だと思いますが、原選手は大企業に勤めていて、周りの理解もありながら、こうやって最後に優勝で締めくくりました。環境を言い訳にすることなくやれると示したとも言えますが、若い選手にどんな言葉をかけたいですか?
フットサルを始めた頃はこの業界の現状もわかっていたので、僕が一つのロールモデルになれたらいいなという気概で7年間やってきました。ただ、お勧めできるかというと、やってみて思ったのは、やらなくていい(笑)。仕事に集中するか、競技に専念できる環境を自分で勝ち取ることがベストだと思います。
それくらい本当に、時間も頭も心も体もギリギリだったので。いつ気持ちが切れて、もう練習いかないですと言いそうになってもおかしくないくらい糸がピンと張っていたので、それをみんなにはお勧めしません(笑)。

──すごく張り詰めた7年間だった。
本当に張り詰めていました。幸い、試合にはずっと出られていて、自分を表現して発散できる舞台がありました。これがもし、試合に出れなかったらコンディションも落ちてしまい、いつやめてもおかしくなかったなと思います。
──そんな7年間を過ごして、自分にご褒美を買ったりは?
全くないですね(笑)。
──明日も朝から仕事に。
明日も朝からです。打ち合わせが入っていて出社しないといけないので。この7年間が本当にご褒美みたいな時間でした。
──人には勧めないのに?
勧めないですけど、僕にとっては本当に濃密で、本当に幸せがいっぱいの7年間だったので。
──そのご褒美タイムがなくなってしまう。
なので、この7年で、できなかった仕事一本に集中するとか、家族に還元することにリソースを注げたらと思います。奥さんはすごく理解がありました。当たり前ですけど、アウェイで日曜に試合だったら、土曜に移動があるので土日は一人にさせてしまいます。それに対して何も文句を言わないですし、「頑張ってきーや」と言ってくれて、本当に感謝しかありません。
──関西の方なんですか?
そうなんですよ。めちゃめちゃ強くて(笑)。社内で、同期の人なんですけどね。味の素で、彼女がマーケティング部門でアミノバイタルゼリーを作って、それを営業で僕が売る。だから、ゼリーをちゃんと売らないと、夕飯にゼリーしか出てこないというネグレクトが起きてしまうんです。
──そうなんですね(笑)。食事の管理もしてもらったり?
そうですね。土日は作ってもらっていました。ただ、彼女も激務で、平日の家事は僕のほうが余裕があったのでご飯は自分で作っていましたね。

──本当に感服というか……やりきりましたね。
やりきりましたね。本当にいつやめてもおかしくなかったですから。大学院生の頃は、学業もあるとは言え、フットサルに集中できていました。なので、年々コンディションが上がっていくことを感じていました。それで、2019年から新たに仕事をしながら競技を続けるとなった時に、どうしても体が動かない。試合の日の午前中に会議をやって、そのまま新幹線に乗って名古屋で夜に試合をすることもありました。
思っているプレーが全然できないとか、体が動かない状態で、この7年間、完全プロでやっている自分の幻想との戦いでしたね。もし仕事がなければもっと俺の体は動くのに、もっと走れるのにという歯がゆさを感じながらやっていた7年間でした。
──新入社員で仕事も覚えながらの生活は想像もできません。
体重もその年は6キロくらい減りました。トレーニングもできないし。
──寝る時間も短くなる。
そうなんです。回復しないから筋力も落ちてしまう。浦安に移籍したタイミングだったので、夜練習に変わって、21時からの練習が終わって、24時過ぎに帰ってきてアドレナリンが出ているから寝られなくて、また7時から仕事に行って、18時くらいまで仕事をして、そこからまた練習みたいな感じでした。「あれ、これって両立できてるんだっけ?」と思いながら無理やりやっている感じ。町田に戻ってきてから、だんだんと仕事も自分のコントロールができるようになってきたタイミングだったので、少しずつ理想の自分に、本当にちょっとですけど近づいた感じでしたね。

──準々決勝でも会社の上司や先輩・後輩の方が15人くらい来てくださっていたそうですが、今日も?
そうなんです。今日も、勝ち残ることを期待した方たちが15人くらい。昨日の準決勝もまた別の人たちが来てくれていて。金土日でそれぞれ、その人たちの予定をもらっちゃってるんで(勝たないといけない)。それぞれ違う部署の人たちも来てくれていたので。みんなに応援してもらって、本当に幸せですよね。
──でも「PKで外した原」って一生言われますね。
そうですね(笑)。まあ、いいツマミになりますね。決めていたらカッコ良かったかもしれないですけど、さっきも会社の人にいじられました。でも、それを背負って生きていきます。
──みんなからの胴上げも1回だけで(笑)。
そうでしたね(笑)。でも、ありがたいですね。

(ここで、取材エリアに森岡薫が登場)
森岡 お待たせしました〜。
──では、まずはPKについて。
森岡 みんな忘れてるから。優勝した思い出しか残ってないから。
──原選手、ありがとうございました。
原 ありがとうございました。
──チームにはまだ関わっていくんですか?
原 関われたらいいなとは思っています。
森岡 僕が(味の素の営業にGMとして)行くので。ちょうどPKを外した2人だし。今後ともよろしくお願いします(笑)。
──もう関係性が切り替わってる(笑)。
原 次はスポンサーとしてチームに関わりたいなと思っています。
森岡 楽しみです。ぜひ、お待ちしております(笑)。

第31回全日本フットサル選手権大会
<日時>3月14日(土)〜22日(日)
■試合結果<決勝>
<会場>駒沢オリンピック公園総合運動場 体育館
<決勝>3月22日(日)
13:00 バルドラール浦安 2(PK3-4)2 ペスカドーラ町田
■表彰
<優勝>ペスカドーラ町田
<準優勝>バルドラール浦安
<3位>名古屋オーシャンズ、湘南ベルマーレ
<フェアプレー賞>ペスカドーラ町田
<MVP>ビゴージ(ペスカドーラ町田)
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