更新日時:2026.11.06
「自ら動き、共に戦い、規律で勝ち取るチーム」高橋健介監督が語る、2028年W杯への覚悟とチームづくり【独占インタビュー】

PHOTO BY青木ひかる
2024年、ワールドカップ出場を逃した日本代表。新たに監督の立場を任されたのがコーチを務めた高橋健介だった。「自分が引き受けることが日本のフットサルのためになるのか」。就任を決断するまでには、迷いもあったという。
再出発から約2年。2026年10月のブラジル遠征までに多くの選手を招集し、代表での競争を促してきた。年齢や実績だけで判断せず、世界の強豪を相手に何ができるかを見極める。その先にあるのは、2028年のワールドカップ出場だ。
11月6日、8日に大分で行われるモロッコ代表との2連戦を前に、高橋監督にここまでのチームづくりを聞いた。予選敗退の責任、引退を表明していた吉川智貴の再招集、そしてアジアを勝ち抜くために必要なこと。監督自身の言葉から、“健介ジャパン”の現在地を探る。
取材・文=北健一郎(SAL編集長)
※インタビューは2026年10月29日に実施
「自分が受けるべきなのか、本当に悩みました」

──日本代表監督に就任したとき、どのようなチームをつくりたいと考えていましたか。
2024年のワールドカップ出場を逃したとき、自分もコーチングスタッフの一人としてあの場にいました。監督という立場ではなくても、一緒にチームをつくっていた一人だと思っています。
それは今も同じで、自分一人でチームをつくっているわけではありません。コーチングスタッフ、ディレクターをはじめとした後ろで働くスタッフ、リーグや選手。全員が一体となってつくっているのが日本代表チームです。その中で大きな役割を持っていた立場なので、責任は本当に大きかったです。
──監督就任のオファーを受けたときには、迷いもありましたか。
自分がここで受けるべきなのか、本当に迷いました。それが日本のフットサルのためになるのかどうか、正直わからない部分もあったので、相当悩みました。
──それでも引き受けた理由は何だったのでしょうか。
あの経験を次につなげていくこと。そして2028年の予選を勝ち抜いて、今いる選手たちが世界で活躍する姿を皆さんに見せること。その使命と覚悟を持って、引き受けたつもりです。
そして……日本代表からのオファーを断ることが、選手時代から自分にはできなかったんですよね。
自分にできることがあるなら、それを全力でやって、目標達成に向かっていく。果たし切れなかった責任を、次につなげる機会を得たのかなと思っています。
──2026年のアジアカップまでのチームづくりは、どのように振り返っていますか。
どんなチームを見せたいかといえば、日本人らしさを生かしたフットサルで、世界で活躍する姿を見せたい。それが、自分が一番目指しているものです。
まず、2026年のアジアカップで優勝することが、一つの目標でした。そのフェーズでは、アジアで自分たちの地位、を取り戻すことを目指していました。そのための戦い方も含めて、2026年までにやるべきことは、6割、7割ぐらいはできたのではないかと思っています。
アジアカップを終えた後に、少し変化を加えるかどうかを精査しようとは考えていました。そこで出た課題も含めて、今は新しいことにチャレンジしている段階です。
年齢ではなく「今、この代表に必要かどうか」

──2025年初めのインドネシア遠征では、普段の代表とは違う顔ぶれで臨みました。若い選手に経験を積ませる狙いがあったのでしょうか。
若い選手たちには、出場機会とチャレンジする機会が絶対に必要です。2028年を考えたときに、若い選手たちが成長してリーグを活性化することも、代表の競争力を上げることも必要だと思っていました。
2026年までに40人ぐらいの選手を招集し、出場機会を与える。その中で、アジアの相手、さらに世界の強豪を相手に、どんなパフォーマンスができるのかを見ていかなければいけないと考えていました。そうした背景があって、若い選手を多く呼びました。
けがの影響で呼べなかった選手もいますし、逆にけがが重なって、当初のプランよりも広い範囲から選手を呼ぶ機会がありましたが、おおむねプランどおりに出場機会を与えられたのではないかと思っています。
──招集候補となる「ラージリスト」は、どのようにつくっていますか。
50人ぐらいのラージリストが常にあり、そこから、例えばアジアカップに向けた25人のリストに絞っていく。さらに、その中から遠征メンバーを選んでいくという形です。
ただ、それは随時更新されていくものです。
──ブラジル遠征では、シュライカー大阪の関口優志選手が5年ぶりに招集されました。選考では、どのような部分を見ていますか。
当然、リーグでのパフォーマンスを見ています。自分たちスタッフの主観もありますし、データもあります。それを継続的に見ています。リーグでのパフォーマンスだけではなく、代表で世界の強豪やアジアのチームを相手にしたとき、実際にどんなパフォーマンスができるのか。その掛け合わせで見て、今の代表にとって必要かどうかを判断しています。
──世代交代を進める一方で、ベテランにもチャンスがあるということですね。
2028年の予選を見据え、そのときに何歳になるかは常に見ています。さらに2032年、2036年に何歳になるかというところまで視野に入れながら招集リストをつくっています。
ただ、年齢を理由に「呼ぶ・呼ばない」を決めるわけではありません。今回の関口に関しては、2028年にも十分にパフォーマンスを維持できる、あるいはもっと高められるのではないかと考えています。
加えて、現時点で出しているパフォーマンスが非常に高い。データでも高いものが出ているので、呼ばない理由がないと思いました。
──選手に求める役割も、年齢や経験によって変わってきますか。
年齢以上に、代表に関わっている年数が長い選手は、若くてもリーダーシップを発揮しつつあると感じます。苦しい経験を何度もしてきた選手も、今は増えています。
本来なら、ワールドカップを経験した選手がたくさんいたほうがよい。でも、それができなかった分、他の国ではなかなか味わわないような本当の苦しさを知っている。その経験を、ポジティブなものに変えていく必要があると思っています。
そうした覚悟を持つ若い選手が、少しずつ増えてきていると感じています。
──アジアカップで清水和也選手と石田健太郎選手が“ダブルキャプテン”を務めたのも、そうした役割を期待しているのでしょうか。
二人のリーダーシップの種類は、全く違います。ただ、それぞれがここまで経験してきたことをチームに還元するという役割は変わりません。
でも、キャプテンだからどうということ以上に、自分たちが目指すのは「自ら動き、共に戦い、規律で勝ち取るチーム」。これは、チームのフィロソフィーとして常に選手に伝えていることです。
経験を重ねる中で、それぞれの選手が自分から動く姿は少しずつ出てきています。でも、もっとできるのではないかと、常に求めています。一人ひとりが自覚と覚悟を持って進んでいかないと、簡単に達成できる目標ではありません。そこは突き詰めていきたいです。
自ら動き、相手を読む「READ&REACTフットサル」

──そのフィロソフィーを、ピッチの上ではどのようなプレーで表現したいと考えていますか。
フットサルのスタイルとしては、「READ&REACTフットサル」をしようと伝えています。
もともとはバスケットボールの言葉で、「READ&REACTオフェンス」というものがあります。中学校の同級生で、今はBリーグで監督をしている友人とオンラインで話す機会があって、教えてもらいました。いい言葉だと思い、使わせてもらっています。
READは「読み取る」という意味ですが、そこにリーダーシップの「LEAD」も加えて、自分たちから動き、アクションを起こす。そうすれば、相手は必ずリアクションを起こします。それを読み取って、さらに自分たちがアクションを重ねる。そういうフットサルをしたいと伝えています。
──バスケットボールから、戦術以外の部分でも参考にしたことはありますか。
そのときは、チームマネジメントも含めて、いろいろな話をしました。それは「競技特性が似ているから」ということだけではなく、一人の監督としての話ですね。
競技特性の部分では、ブロックを使うプレーへの対応などを、かなり細かく教えてもらいました。すごく参考になりましたし、もともとスペインではハンドボールから戦術が発展してきた背景もあります。他競技から学ぶことは、とても有意義だと思います。
──ご自身がスペインでプレーし、指導を受けてきた経験は、今のチームにも影響していますか。
「スペインのスタイル」といっても、監督によって違います。自分が影響を受けたのは、ミゲル・ロドリゴ監督であり、ヘスス・ベラスコ監督であり、さらにさかのぼれば、プレデター時代に教えてもらったチャビ・クロサスさんです。
彼らが教えてくれたことの中から、自分なりにいい部分をつないでいく。その中で、自分が求めるフットサルができあがっているのかなと思います。
──世界のトップで実績を残す指導者と、選手として一緒に仕事をしてきた経験は大きいですね。
ヘススと一緒にやれたのは1年間でしたが、そのときの練習メニューは、当時からノートに取っていました。本当に運が良かったと思います。
僕を日本代表に呼んでくれたのはブラジル人監督のサッポでしたが、ブラジルのスタイルとスペインのスタイルがあり、スペインの中でも三者三様のやり方がある。そうしたものに触れられたことは、自分にとって本当に財産です。
──ブラジルとスペインのフットサルには、どのような違いを感じますか。
すごく簡単に言えば、ブラジルは試合を重ねる中でうまくなっていく人たちなのではないかと思います。そもそもの試合数も、負けられない試合の数も、日本の倍以上ある。そういう環境から出てきた選手たちです。
ゴールを奪う、奪わせないという本質的なプレーがしっかりできた上に、サインプレーなどが乗っている印象です。
スペインは、個人の技術や戦術をとても大事にしていて、特に認知と決断の部分にフォーカスしている印象があります。
──日本の個人戦術の水準も上がっていますか。
ベースのレベルは、間違いなく上がってきています。ただ、フィジカルのレベルが上がったことで、良くも悪くもカバーできている要素も多分にあるのではないかとも感じています。
そこにもっとこだわれば、さらに強くなれるのではないか。細かいことにこだわって追求することは、日本人の強みだと思います。
だから、もっと映像を見て、自分自身にフィードバックができるようになろう。そのフィードバックの質を、より高いレベルにしていこうということは、常に伝えています。
──今は映像を簡単に見られる一方で、試合を深く研究することの大切さも感じているのでしょうか。
選手が普段どう生活しているか、見えていない部分もあるので、一概には言えません。ただ、1試合を丸々見ることのハードルが高くなっているのかなとは感じます。
スペインの指導者からも、年代別の活動で、選手たちはロッカールームでそれぞれスマホを見ているという話を聞きますし、日本だけのことではありません。だからこそ、そこを自分たちの強みに変えられる可能性もあるのではないか。選手たちには、そういう問いかけをしています。
吉川智貴を呼んだ理由と、予選敗退からの教訓

──チームづくりの中では、現役引退を表明していた吉川智貴選手を、2025年10月のブラジル戦で再招集したことも印象的でした。
もともと吉川が担ってきた役割を、他の選手に担ってもらえると考えていましたが、そこまでにはなかなか至らなかったというのが正直なところです。
2026年のアジアカップを取ることと、その後につなげること。その両方を考えたとき、智貴の経験や個人戦術を、ピッチの上で伝えてもらう役割があるのではないかと思いました。本当に熟考した上での決断ですし、プラスだったと思っています。
──ブラジル戦後の会見では、吉川選手について話す中で涙を流す場面もありました。もう一度、代表でいい形で戦ってほしいという個人的な思いもありましたか。
個人としての思いは、もちろんありました。でも、それが招集の理由ではありません。私情は置いて、このチームが目標を達成するために必要かどうかで、呼ぶ・呼ばないを決めていました。
あの試合は、多くの観衆の前でプレーする、吉川にとって国内最後の代表戦でした。試合前に少し話をしたとき、感情的になる部分があって。それが会見でフラッシュバックした、ということです。

──あくまで、吉川選手の実力とパフォーマンスが必要だった。
そうです。あのときの吉川のリーグでのパフォーマンスは、代表に値していたと思っています。逆に、名古屋が優勝できなかった前のシーズンは、そこに達していないのではないかと見ていたので呼んでいません。それは本人にも話していました。
──引退後、吉川さんがJFAのフットサルナショナルチームダイレクター(NTD)に就任しました。今はどのような話をしていますか。
NTDの役割は、代表チームの方向性を定めることです。日本はどこに向かっていくべきか。親善試合も含めて、どのようなプランを持つか。それは何のためなのか。そうしたことを、よく話します。
合宿や大会を終えれば、吉川の視点から「こういうところが気になった」「ここを改善していくべきではないか」という意見ももらいます。その上で、最終的には自分たちテクニカルスタッフの中で決めていく形です。
──吉川さんは、監督の仕事を評価する立場でもありますね。
もちろんです。一緒に代表を良くしていく立場ですが、当然、自分を評価する立場でもあります。
日本のフットサルが良くなるために、それぞれの役割を果たす。そのことをお互いに理解して、仕事を進められていると思います。
──2028年にアジアを勝ち抜くため、2024年の予選敗退から何を変えなければいけないと考えていますか。
2024年に勝てなかったことについては、そこまでのプロセスが決して悪かったわけではありません。ある程度順調に進んでいた中で、FIFAデイズの外で行われたことで海外組を呼べなかったり、直前に清水和也やアルトゥールなど中心選手が怪我で離脱したことが、大きく影響したと思っています。
試合内容も、相手に主導権を握られていたわけではありません。自分たちがボールを握る中で、相手に数回のチャンスを決められた試合でした。その教訓を次に生かさなければいけないし、現場にいた自分の役割は、それを次につなげることです。
だから今は、招集した選手たちに、最低限の出場機会をつくることを考えています。必ず一定の時間を与えるということではなく、練習も含めたパフォーマンスを見た上でですが。
実際に出場してもらうことで、本番で必要になったときの見極めができますし、選手自身もパフォーマンスを発揮しやすくなるのではないかと思っています。中心選手がいなくなった場合も想定しながら、一歩ずつ進めている段階です。
──想定していた選手やセットが組めなくても、勝ち抜けるチームにしなければいけない。
そうですね。それは2026年のアジアカップでも起きたことです。石田がいなくなり、準決勝では山田凱斗が出られない状況になりました。そうした中でもどう勝ち抜くかを、常に意識しながら進めていかなければいけないと思っています。
「小さなことが勝負を分ける」アジアを勝ち抜くために

──ご自身が選手だった頃と比べて、アジアのレベルは上がっていると感じますか。
アジアカップのデータを見ても、接戦の割合はどんどん高くなっています。大差がつくような試合は減っている。どんどん縮まっているのは間違いありません。
──かつては、グループステージを戦いながら調子を上げられる大会でもありました。
自分が現役の頃は、最初からギアを100パーセントまで上げる必要がなかった。明確な弱点があったので、落ち着いてそこを突いていけば、徐々に点が重なっていく。それが当時の印象です。
今は各国に外国人監督がいて、海外にルーツを持つ選手がいて、自国のリーグも活性化しています。さまざまな映像が見られますし、当時は自分たちの強みだった戦術面についても、もう相手が知らないわけではない。そういう状況になっていると思います。
──高橋監督はインドネシア代表監督として、アジアの強化に携わってきた立場でもあります。アジア全体の成長は、日本にとってもプラスでしょうか。
もちろんです。インドネシアが強くなったのは、つまり、東南アジア全体が強くなっていることだと思っています。もともとはタイが引っ張り、ベトナムが続いていた。そこにマレーシアやインドネシアが力を入れ始め、力をつけてきた背景があります。アジア全体、あるいは自分たちでいえば東アジアが強くなっていくことは、日本代表にとってもプラスになると思っています。
──11月6、8日に行われる大分でのモロッコとの2連戦では、何を確かめたいですか。
ブラジル遠征でカーボベルデと対戦できましたが、それまでは、このチームでアフリカの相手と試合をしていませんでした。もともとは、違うスタイルのチームとの試合を経験したいと考えて、モロッコにオファーをしています。
モロッコは本当にユニークなスタイルを持ったチームです。世界で最もモビリティが高いフットサルをしてくる。そこに自分たちがどう対応するかは、次につながる経験になります。
ランキングで見ても、格上の相手です。そこに食らいつき、ホームの多くのサポーターの前で、最後まで諦めない姿勢を見せながら、勝利を手繰り寄せたいと思っています。
──ブラジル遠征で得た経験も、今回の2連戦につながりますか。
特に最後のカーボベルデ戦は、体のサイズこそ違いますが、技術やスピード、こちらが想定していないことが起こるという部分で、モロッコとつながるものがあると思います。
ブラジルとの試合では、最後の局面を個人でこじ開けられたところもありました。そこをどこまで我慢できるのか。その経験を次につなげなければ、遠征の意味がなくなってしまいます。個人としてもチームとしても、今回のモロッコ戦につなげたいです。
──最後に、会場や中継で応援する皆さんにメッセージをお願いします。
国内で世界の強豪とプレーする機会は、本当に限られています。大分のサッカー協会の方々をはじめ、多くの関係者にサポートしていただいて、今回の機会を得られています。その力をいただいている分、勝つ姿でお返ししたいと思っています。
日本代表としては、2019年に国内の親善試合でタイに勝って以来、国内で勝てていません。なんとかここで勝つ姿を見せたいですし、皆さんと喜びを分かち合いたい。それが選手にとって大きな力になり、代表としての責任や覚悟を、内側からつくっていくことにもつながると思います。
モロッコ戦では、自分たちのフィロソフィーをしっかり体現して、勝利を届けられるように頑張ります。
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