更新日時:2026.11.06
「日本代表では目標に届かなかった」名古屋のレジェンド・吉川智貴が引退後JFAでの仕事を選んだ理由【独占インタビュー】

PHOTO BY青木ひかる
現役引退後、なぜ日本代表の強化に携わる道を選んだのか。そう尋ねると、吉川智貴は少し時間をかけて、自分の言葉を探した。ワールドカップへの出場も、その舞台で目指した結果も、思い描いたとおりにはならなかった。その経験が、今の仕事を選ぶ理由の一つになっている。
2026年4月にJFAのフットサルナショナルチームダイレクター(NTD)に就任。男子だけでなく、女子や各年代の代表も担当する。現役時代に自ら立っていたピッチを、今は強化を支える立場から見つめている。新しい仕事に就いて約半年の吉川に、日本フットサルの現状とこれからを聞いた。
取材・文=北健一郎(SAL編集長)
※インタビューは2026年10月29日に実施
選手として届かなかったものがある

──4月1日にJFAで働き始めて、約半年が経ちました。今の生活には慣れましたか。
そうですね。ようやく、だいぶ慣れてきたかなというところです。
──現役引退後は、そのまま名古屋に残ると想像していた人も多かったと思います。なぜ、代表の強化に関わる仕事を選んだのでしょうか。
一番は、選手のときに、日本代表で目標としていたものに、いろいろと届かなかったことが大きいです。
ワールドカップに出るというところもそうですし、2021年に出場したときも、最終的には自分が思い描いていたような終わり方ではありませんでした。選手として悔いが残っている部分は、日本代表の活動ではすごくあったので。
選手を終えた後も、何らかの形で携わっていくことができれば、すごくうれしいなと思っていました。
──フットサルナショナルチームダイレクター(NTD)とは、どのような仕事なのでしょうか。
一番の仕事は、日本代表チームを強くしていくためのプランニングです。直近だけではなく、中長期的な部分も含めて、どういう活動をすれば日本代表が強くなるのかを考え、それを実行に移していく。あとは、代表チームにおける責任者という立場になります。
──男子代表だけではなく、女子や各年代の代表も担当しているのですか。
今は、すべてのカテゴリーを見させてもらっています。
──吉川さんが全国各地を飛び回っているという目撃情報も多いです。
そうなんですか(笑)。週末はいろいろなところへ行って、男子だけでなく、女子のリーグも、見られるところは見ています。クラブの方とコミュニケーションを取らせてもらうことも、今やっている仕事の一つです。
最後は「日常」がピッチに出る

──長く日本代表でプレーしてきた中で、「もっと良くなれば、代表は強くなる」と感じていたこともあると思います。今、何を変えていきたいですか。
一つではないですね。いろいろな要素が絡み合って、今の現状にとどまっていると思います。「これだけを良くすれば強くなる」というわけではないので、すごく難しいです。
今のA代表を強くするのか、5年後、10年後の代表を強くするのか。それによって、今やるべきことも変わってくると思います。
──まず、今のA代表を強くするために必要なことは何でしょうか。
代表活動では、ベストなマッチメイクをして、どこと試合を積み重ねていくかが、すごく大事です。それは自分の仕事でもあるので、やっていかなければいけません。
一方で、最終的には日常がピッチに出ると思っています。日常の環境を少しでも良くして、普段から競争力を高めていくことが、すごく大事なのかなと思っています。
──現在は、海外の強いリーグでプレーする日本人選手が、決して多くありません。ご自身もスペインでプレーした立場から、どう見ていますか。
正直、もっと出てほしいですね。
A代表の強化という意味では、それが一番の近道だと思います。特にスペインやポルトガル、ブラジルといった強いリーグで、日々のトレーニングから高いレベルを経験する。それは選手自身の成長につながりますし、代表の強化にも直結すると思っています。
そういう意味では、どんどん出ていってほしいです。
──海外のクラブから見た、日本人選手の評価はどうでしょうか。
自分が行ったときより、日本人の価値はだいぶ上がっていると思います。原田快(こころ)もバルセロナでプレーした経験がありますし、昔よりも評価は上がっているのではないでしょうか。ただ、その一方で、海外にチャレンジする選手は、昔と比べて明らかに減っていると思います。
──海外でプレーを続ける難しさもありますよね。
サッカーと比べると、待遇面などの難しさはあるのかなと思います。
──そうした難しさがあっても挑戦してほしいと思うのは、ご自身の経験があるからですか。
自分にとって、スペインでの経験がすごく大きかったからです。本当に、その2シーズンが一番成長できたと思っています。
選手として成長できたことはもちろんですが、知らない国へ行って、違う文化に触れ、そこで暮らすことは、本当に大きな刺激になります。自分の価値観も含めて、すべてが変わったという経験がある。だからこそ、出ていってほしいと思いますね。
代表活動は当たり前にできるものではない

──代表活動に向けて、クラブとはどのようなやり取りをしていますか。
クラブの代表の方とお話しさせていただいて、「こういう活動があるので、ご協力をよろしくお願いします」というやり取りをしています。
──リーグ戦もある中で、クラブとの協力関係をつくることも大切な仕事ですね。
もちろん、そこは考えてやっていかなければいけません。こちらは、あくまでもクラブから選手をお借りする立場です。日本代表に選手を送り出してもらえるような関係づくりをしていかなければいけないと思っています。
──選手から代表を支える立場になり、初めて分かったことはありますか。
本当に多くの方が関わってくださって、代表活動ができているということです。選手のときも分かっていたつもりですが、今はそれを間近で見ています。
代表活動ができることは、当たり前ではない。そのことは、選手のときよりも感じています。一回一回の活動の重みを、より感じているのかもしれません。
──監督やコーチ以外にも、多くの方が関わっていますよね。
本当に、すごい人数の方が関わってくださっています。遠征に向けて、選手にも準備してもらうことがあり、こちら側が準備することもあります。
もちろん、すべて自分がやっているわけではありません。事務局のスタッフも含めて、選手のときには分からなかったことが、たくさんあるなと思います。
選手時代から、一回一回の活動が当たり前ではなく、大事なものだとは思っていました。いろいろな人が動いてくれているから活動できることも、分かっていたつもりです。でも、結局は想像の域だったんですよね。
今はそれを間近で見て、一緒に物事を動かしています。皆さんの支えがあって、こうして活動できるのだと、改めて感じます。
今はボールは全然蹴っていない

──現役時代の吉川さんは練習開始のかなり前からアリーナに入っていましたよね。
1時間半前には、絶対に行っていました。早いときは2時間前ぐらいです。
──今も、ボールは蹴っていますか。
全然蹴っていません。代表の合宿があるとき、選手が来る前や帰った後に、少し壁に向かって蹴るぐらいです。本当に、それぐらいですね。
──ピッチに戻りたいと思うことはありませんか。
正直、あまりないです。ただ、この間のブラジル遠征や、4月のポルトガル遠征で強いチームを見ていると、「ああ、やりたいな」と思うこともありますが。
メンバーを固定せず、競争を促したい
──世界と戦ってきた経験は、今の仕事にどう生きていますか。
フットサルの仕事なので、競技の中で何がどうなっているかは、ある程度分かります。ただ、それ以外の部分で、何が役立っているかと聞かれると……。
──ただ、代表の強化を考える上で、吉川さんの目は大事になるのではないでしょうか。
すごく大事だと思うので、責任もって仕事をしないといけないですね。
──高橋監督とは、どのようなコミュニケーションを取っていますか。
各遠征の振り返りはもちろんしていますし、どういう方向へ向かっていくべきかという話もしています。ブラジル遠征の後も話していますし、しっかりコミュニケーションを取っています。
──各遠征の狙いや、どんなメンバーで臨むかというところにも関わるのでしょうか。
最終的なメンバー選考には、自分は関わりません。監督とコーチングスタッフが選んだ選手になります。その前の段階で、「こういう目的で、この遠征をやりたい」「その上で、どういうチームづくりをするか」という大枠の話はします。ただ、細かい部分は監督の仕事でもあるので、任せています。
──今の代表は、同じグループで戦い続けるよりも、メンバーを入れ替えながら強化している印象があります。
4月のポルトガル遠征に関しては、自分が就任する前の準備だったので、大きく話はできていません。Fリーグがオフシーズンということも含めて、いろいろな制約がある中での選考だったと思います。
ただ、ブラジル遠征で感じたことでもありますが、メンバーの流動性は、ある程度必要だと思っています。そのフィードバックは、監督にもしています。
──2024年には、主力の離脱によってチームが難しい状況になりました。その経験も背景にありますか。
選択肢は広げておくに越したことはありません。
メンバー争いの競争力を高める意味でも、毎回同じ選手が呼ばれるより、代表の基準に達している、代表でプレーできる能力のある選手がたくさんいるのであれば、流動的にやっていくべきだと思います。
日本代表を強くするために必要なこと

──代表の活動以外にも、強化のために取り組まなければいけないことはありますか。
選手時代から感じていましたが、強化だけをやっていても、現実的に難しいのかなと思います。
普及、育成、指導者も含めて、いろいろなことが絡み合ってこないと、代表強化にはつながらない。選手を辞めて、そこはより感じるところです。
──高校や大学でも、競技としてフットサルを続ける選手が増えてきました。現状をどう見ていますか。
確実にフットサルを専門的にプレーする選手は増えてきていると思います。夏にU-18の全日本選手権を初めて見たときも、普段からフットサルをやっている選手の活躍が目立ちました。高校や大学までサッカーをやっていた選手が入ってきて、すぐ活躍することは、だんだん難しくなっていると思います。
──スペインではサッカーかフットサルかを12歳ぐらいのタイミングで選択するそうですが、日本もそうなりつつある?
そこは、まだまだだと思います。専門に取り組む選手が増えているとはいえ、すごく少ない。今のチーム数、選手数だけでは、競争力という部分では全然足りないと思います。上につなげていくためにも、競技人口を広げることは絶対に必要です。
──一方で、サッカーにはJ3やJFLなど、プレーを続けられる選択肢が増えています。フットサルに人材が流れにくくなっている面もありますか。
それは、おっしゃるとおりだと思います。サッカーには、J3やJFLでも待遇のいいチームがあります。そういう状況では、フットサルにとって難しい部分はありますよね。
──優秀な選手に入ってきてもらうことと、今いる選手を育てること。その両方が必要ですね。
競技人口を増やさなければいけないことは、絶対です。ただ、だからといって、今いる選手たちの能力が低いのかといえば、自分はそうは思いません。
その子たちがもっと伸びる環境や、指導者のあり方も含めて、今フットサルをしている選手をどう伸ばしていくのか。それを考えることも、すごく大事だと思います。
──サッカーとフットサルの間で、選手が行き来することについては、どう考えていますか。
サッカーとフットサルを分ける必要はないと思います。15歳ぐらいまでは、サッカーとフットサルを隔たりなく、どんどんやるべきです。その年代でサッカーをしている子たちにも、フットサルに入ってきてほしいと思っています。
そこから先、高校1年、2年、3年という年代になれば、フットサルに特化し、専門的に取り組んでいかないと難しい。そういう時代になってきているのではないでしょうか。
──代表、育成、指導者養成は、どのような体制で連携していますか。
代表チームのダイレクターを自分が担当して、育成は佐藤亮さん、指導者養成は前川義信さん。その三つを統括しているのが、小西鉄平さんです。
どれかが単独で動くものではありません。すべてがつながって初めて、強化に直接つながってくると思います。みんなでコミュニケーションを取り、どう進めていくかは、よく議論しています。
「やるのは選手。自分は、そのサポートをする」

──2028年のW杯出場に向けて、11月6、8日に行われるモロッコとの2連戦は、どんな位置づけになりますか。
モロッコは力をつけて、世界の強豪の仲間入りをしたチームです。その相手にどこまでできるかという、力試しの部分もあると思います。
ただ、国内でやる以上、勝たなければいけないとも思っています。まずは2試合に勝って、日本のサポーターや、見に来てくださった皆さんに勝利を届けたい。それが一番ですね。
この試合の勝敗が、そのまま2028年に直結するわけではありません。でも、一回一回の活動をどう有意義に使っていくかという意味でも、本当に貴重な機会です。監督が求めるフットサルを、日本の皆さんに見てもらいながら、勝利を目指したいと思います。
──吉川さんは2023年にキャプテンとしてモロッコと対戦しています。どのような印象がありますか。
4人で動く「クアトロ」と呼ばれるシステムで、みんながたくさん動き、ボールを速く回して、相手の背後を取ってくる。前へ向かう推進力がすごくあるチームです。個人の能力も、とても高い。
自分たちにとって、やりづらい部分もあれば、かみ合う部分もあると思います。前に対戦してから、自分たちがどう進化しているのかを見る、いい機会でもあると思っています。
──ワールドカップ出場を逃した責任を、今も背負っているのではないかと感じます。
結果を残せるように、やるべきことを、しっかりやっていくだけです。
──最後に、2028年、日本がワールドカップ出場を決めたら、どんな気持ちになると思いますか。
どんな気持ちになるんでしょうね。考えたことがなかったです。うれしいのか、ほっとするのか……。ちょっと分からないですね。
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