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町田・甲斐修侍監督の愛情。クラブを再生させた育成力の秘密

PHOTO BY高橋学、北健一郎

5年前に危機感を覚えて、中長期プランの企画書を作成

──2016年にU-15、翌年にU-18を作って、そこで育った選手たちが現在のトップチームの中心になっている。これは5年前に未来像として思い描いたものが形になっている感覚ですか?

甲斐 実は、町田に外国出身選手が一番多かった2018-2019シーズンの成績が、シフトチェンジを決意させた。森岡薫(リガーレヴィア葛飾)、ダニエル(サカイ・ダニエル・ユウジ/しながわシティ)、バナナ(クレパウジ・ヴィニシウス)、アウグスト(退団)、(ピレス・)イゴール(バルドラール浦安)がいた時だね。

──タレント軍団でした。新旧の日本代表がそろい、優勝は名古屋か町田かというくらいの。

甲斐 そのシーズンに、めちゃくちゃ危機感を覚えて。一番衝撃だったのがFリーグ選抜との試合。リーグ戦序盤で負けたんだよね(2018年7月13日、第5節、●0-3)。その試合は、ベテラン、中堅の経験値のあるブラジル人や日本人が、若くて無名の Fリーグ選抜に、「ほらこうやってやんだぞ」って余裕かましてやってんだけど、カウンターでズドン、ズドンって3回決められて負けた。

──それで決意を?

甲斐 いや。負けたんだけど、やっぱりゲームの主導権はちゃんと握っていた。それで2巡目は勝ったけど(2018年11月18日、第22節、◯5-3)、最終節にまた0-4で負けんの(2019年2月11日、第33節、●0-4)。その負けの内容が、最初の負けとは全然違った。7、8カ月後だったかな。

──内容は、いわゆる必死に守ってカウンターのジャイアントキリングではなかった?

甲斐 Fリーグ選抜のフィジカルベースと選手の成長率、迷わずにチャレンジする姿勢に驚かされた。この短期間でこれだけ上がって、簡単じゃない局面で迷わずプレーできる頻度もこんなに上がるのか、と。これはなにかを変えないとやばい、このクラブは数年後に大変なことになるという気づきを与えてくれた。

──それでシフトチェンジを。

甲斐 たった7カ月でものすごく成長した姿を見て、もう昔の余韻に浸ってチームをつくっている場合じゃないなという危機感を覚えた。それで俺が中長期プランの企画書を作った。

──甲斐さんが!?どんな内容ですか?

甲斐 ざっくり言うと、トップと下部組織はどういう関係であるべきか、トップの年齢のバランスやアスピのそれは現状どうで、3年後、5年後、10年後にどう変わっていくべきかという内容。この企画書をクラブ内で共有して、下部組織で育てた選手をトップにつなげるために、育成にもっと本腰を入れるということをやり始めた。

──プランどおりというか、すごいスピード感で進んでいますね。

甲斐 翌シーズンにルイス(ベルナット監督/2018~2022)がトップの監督に就任するんだけど、彼も育成に定評がある監督だった。長くクラブを支えてくれたベテランたちの引退時期が重なったこともあった。とはいえ、コロナ禍の財政事情でそうせざるを得ない状況でもあったから、必ずしも計画どおりというわけではないかな。

──ただ、循環している印象がすごくあります。例えば、昨シーズンにブレークした山中翔斗選手も、左利きのアラ枠で考えると、仮に甲斐稜人選手や原田快選手がそのまま在籍していたら、今のようなパフォーマンスを出せていたのかな、と。この循環は計算どおりですか?

甲斐 快に関しては、もともとスペインでやるまでの期間という話だったし、稜人は、俺が監督やらなければ残っていたし。計算どおりではないです。

──話が逸れてしまいますが、甲斐稜人選手の名古屋移籍の経緯を聞かせてもらえますか?

甲斐 クラブの財政事情もあって俺が監督をやると決まった時に稜人と話をして「下部組織ですら俺は違和感あったけど『トップチームで親子』というわけにいかない。お前はどう思う?」って。

──どうしてでしょう。実力は日本代表に呼ばれるくらいあるわけで、誰も贔屓とは思わないのでは?

甲斐 たとえ稜人がすごく活躍したとしても、親子だから。トップカテゴリーでその関係がある以上、うまくいってもいかなくても絶対に波紋は呼ぶだろうから。そういう引っ掛かりは1ミリでも、俺が監督をやる以上、絶対あっちゃいけないと思っている。

──なるほど。

甲斐 例えば、俺が監督業しかやっていなくて、クラブに雇われた身で、選手もクラブが選んでいて、そこに実子が選ばれましたということならしょうがないけど。クラブの代表という立場でもある俺がそれをやるのは良くない。「俺もそう思っていた」って稜人も。で「国内だったら名古屋以外は考えられないし、ダメなら海外に」と。そこで名古屋の櫻井さんに相談させてもらって入団に至った感じです。

──そうだったんですね。話を戻します。次から次へと活躍する選手が出てくるこの循環は、意図したものではない、と。

甲斐 そうだね。なるようにしてなったというか。昨シーズンは、8月に元亮がスペインに行くことが分かっていたから、ピヴォの遠藤(颯)をちょっと早いかなと思いつつトップに上げた。トップの練習に参加したこともなかったから「この強度で大変だろうけど、とにかくまず慣れろ」と。でもその遠藤が、湘南との試合で2点取ってチームを勝たせたりして。それには本当に驚いた。

──甲斐さんの想定以上のことが、トップでも起こってきた。

甲斐 そのあとの試合でまた本人も相当苦しんだというのもあったけどね(笑)。でも、そういう舞台に立たない限り可能性はないんだなと。「今はまだ上がれない」っていう選手もなにかの理由で上げさえすれば、グッと行くこともあるんだなって、その時にも思った。まだまだ分からないことだらけだね。



海外の監督と過ごすシーズンを経験させてあげたい

──今はトップの監督をしながら育成にも関わっているという感じですか?

甲斐 そうだね。今はU-15やU-18の練習は見に行ってなくて、アスピは週2回見てる。あとは映像の共有をしているから、U-18・U-15の担当コーチと話をしたり、情報をシェアしながらという感じだね。

──トップの監督はどこまでやろうと考えていますか?

甲斐 こういうインタビューで本当は言っちゃいけないんだけど(笑)。一刻も早く、クラブとして優秀な監督を雇って、選手たちにそういう経験をさせてあげたいとは思っているかな。

──ずっとそのスタンスですよね。前田コーチも話していたのですが、「甲斐さんがついに監督を」という町田のファン・サポーターはもちろん多いと思いますし、長くフットサルを見てきた人にとっても、「監督・甲斐修侍」は待ち望まれた状態なのではないでしょうか。

甲斐 そうかなあ。でも去年は本当に……やめたいと言ったらあれだけど、早くクラブ状況を整えて、本当に経験のある優秀な監督を、海外のブラジル人やスペイン人を呼ばないと、と思っていた。

──そうだったんですね。

甲斐 ただ昨シーズンを通じて、思ってもみなかったいろいろな経験をさせてもらい、感じたことがあるので、今シーズンはこの環境も去年ほど心地悪くはないというか。ちょっと慣れた感じもある。なにより選手たちが日々の練習を毎回、毎回、本当にみなぎる強度でやってくれているからね。

選手たちのその姿勢が成長につながり、結果に結びついていることを、この3カ月で感じて。だから去年ほどは「早くやめないと」とは思わないけど、逆に、だからこそ俺なんかよりもっと指導力のある海外の監督と過ごすシーズンを経験させてあげたいという思いが強いというのが本音かな。

──選手たちを成長させるためなら、自分が監督じゃなくていいというスタンスは一貫していますね。でも甲斐さん、たぶん多くの人が楽しみしているので“甲斐ペスカドーラ”が優勝する瞬間を。

甲斐 もちろん、もちろん。やるからには優勝を目指すし、勝つためのことしか考えていない。でも仮に、仮にだよ、残り試合をうまく勝って優勝争いしたからといって、俺が監督として優れているとかではない。たまたまというものがいっぱいあるし、勝負事というのは、本当に分からないじゃない。

ただヨシ、オサム、良太たちの協力を絶対に無駄にしたくないし、なにより応援してくださる多くの方々に対しての責任があるので、これからの一つひとつの試合に向けてしっかりと準備して全力で勝ちにいきます。

──貴重な話をたくさんありがとうございます。最後に、シーズン後半戦へ向けて。

甲斐 おそらくいろいろなやり方があるだろうし、正解・不正解も分からない。とにかく選手たちが、試合をするまでのできる限りの準備と、試合を迎えた時に100%、ともすれば120%の力を出すためのサポートをするのが、俺らの仕事だと思う。それを最後まで続けたいと思います。



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